アメリカ カナダ 入国審査

「ミステリーがある。

カナダからアメリカへ飛行機で飛ぶ旅行者が、アメリカについてから入国審査を受けなかった、と言い張っている。

そのくせ、彼のパスポートにはアメリカ入国カードの半券がきちんとホチキス留めされている。

そのカードにはちゃんと今日の日付のアメリカの入国スタンプも押されているじゃないか。

さぁ、どうしてだ?」

 

・・・なによ、その問題。

勉強会って言っていたのに、いきなりクイズ出してどうするのかなぁ。

わたしは何て答えようか迷ってしまうじゃない。

 

「え〜。え〜と。VIPだからアメリカの入国審査は不要だったとか?」

 

「いやいや、そんな特別なケースじゃないよ。

一般人で、記憶喪失でも裏工作をした人でもない。

普通にその日の朝にカナダの空港から飛行機に乗ってアメリカにやってきたばかりなんだ。

カナダの前に滞在していたようなアメリカ再訪問者でもないし。

さぁ、ちょっと難しいかな?」

 

「難しいよ!カナダで出国でしょ。そしてアメリカに着いたら入国審査ってことでしょ。

アメリカの入国審査は最初に着いた空港でやるのだから

アメリカの空港でやっているはずだし。やっぱり分からないよ、ケン」

 

「そうですよね!こんなマニアな問題、分かるはずないですよね!

アメリカとカナダは隣国同士だ。

アメリカはメキシコとも陸続きだけど、経済発展具合がだいぶ違うから

アメリカ・カナダほど密接な関係ではない。

それはね、アメリカとカナダは全く違う国同士だよ。

でも、あんまり難しく考えなくてもいい先進国同士だから

そこには特別入国ルールが結ばれているんだ」

 

 

 


「特別って、カナダだけ?」

 

「そう。カナダからアメリカへ飛行機で入国する人は、カナダの空港でアメリカの入国審査を受けるんだ。

分かるかい?カナダにいながらにしてアメリカに入国してしまう感じだよ。

カナダの空港でチェックインして、次に出国審査を受ける。

その先を歩いてゆくとなんとそこにアメリカの入国審査場があって、アメリカの入国審査官がいるんだ。

カナダの出国審査場を出てから確かにそこはもうカナダではないにしても、

地理的にはカナダの空港内だからね。

やっぱり不思議な感覚だろう?」

 

「不思議〜。カナダの空港でカナダ出国してアメリカ入国して。

で、アメリカの空港に着いたら何するの?何もなし?」

 

「そう。何もない。国内線感覚で到着さ。荷物だけ受け取って出口だね」

 

お話は分かるよ。ルールは分かった。

でも、なんでだろう?どうしてそんなことするのかな。

普通にアメリカの到着空港で入国審査を受けちゃいけないの?

そう言いたそうな表情をわたししていたのかな。

 

ケンがすかさず言葉を入れてくる。

 

「旅子さん、アメリカとカナダはそれでどんな利を得ているって聞きたいんでしょう?

そうだよね、何かあるからやっているんだもんね。

単純なことでね、アメリカの入国審査場っていつも混んでいるでしょ?

隣国のカナダから来る人の大半は何も問題ないカナダ人だし、

地理的にも近いから入国審査官をカナダに派遣してもそう苦ではない。

これでアメリカの空港での混雑が解消できてアメリカはハッピーだし、

カナダ人もアメリカでの長時間の待ち時間を回避してカナダ出国時にスムーズなアメリカ入国審査を受けられる。

互いにメリットがあるからこのアメリカ・カナダ特別ルールをやっているのさ」


ミステリーの答えは合理性だった。

 

そうね、ケンが教えてくれたこの特別入国ルールがあるから、

その人はカナダの出国空港でアメリカの入国審査を受けていた、というわけ。

それはアメリカでは入国審査は受けないよね。もうカナダの空港で受けているのだから。

知らなければなんか本当にミステリー。知ってしまえば当然のことね。

いい勉強になったよ、ケン!

 

アメリカEビザ 貿易投資家


「Eビザって、どんな小さな企業でもアメリカに投資さえしていればいいの?

企業の大きさとかは関係あるのかな?」

そう言われてわたしは困った。

tokoの指摘は毎回的を得ている。

わたしの知識不足のせいだろう、充分に答えられない時もあるのだから。

「数字として、何万ドル以上ってのはないよ。

ただ言えるのは、アメリカに相当額の貿易や投資をする企業ってこと。

つまりね、自分の所得だけのためにアメリカに会社を立ち上げたとしても

それは投資や貿易とは見なされないからEビザの適用外だ、ってこと」


「あー、分かりました。

自分ひとりとか、家族経営の企業とかで生活費ぐらいしか利益を期待していないのに、

“これがアメリカへの投資だっ!”って言ってもEビザはおろしてくれないのね?」

「そうだよ、そういうこと。

それは僕だってアメリカに投資して有限会社Ken LLCでも作ってEビザを取りたいけど、

そんな小規模の会社じゃぁEは取れない」

「わかったー。わかったー。よくわかったー」

そう言ってtokoは自分の仕事を続け始めた。

ほっと胸をなでおろすわたし。

アメリカビザのことは、この実務担当者の立場からだけでも分からないことだらけ。

弁護士、移民局、ビザ申請者、他色々な立場から勉強しないと

ちゃんとした答えができるものじゃないから。

 

アメリカ Lビザ Eビザ

「toko, LビザとEビザの違いが明確に言い当てられるかい?」

ケンにそんな難しい質問をされて、わたしは困った。

 

「ムリです、よく分かりません」

どうせダメだと思って、即答でそうギブアップすると

ケンがにっこりと微笑んでこう言った。

 

「正解!それでいいんです!」

「なにそれ?!からかってるぅ?」

 

ちょっと馬鹿にされたカンジがしてそう反抗すると、

やっぱりケンはマジメな顔で続けてくる。

 

「いや、本当に。LとEはね、僕も実は明確には違いが分からない。

多分誰もはっきり区分けはできないと思うんだ」

「そうは言ってもお客さんにも説明しないと困るでしょ?

じゃぁ、ケンの理解でいいから教えてよ。分かる範囲でいいからさ」

そこまで譲って逆質問すると、ようやくケンが教え始めてくれた。

 

 

アメリカビザ写真4.jpg

 

 

「Lってのは企業内転勤者ビザ、つまり世界中の同グループ内での転勤さ。

転勤だから一時的なものでね、最初は3年のビザ、最長で7年しかない」

「はい。それは分かるんだ。転勤者ね。分かりやすいよ」

 

「Eでしょ、問題は。Eは投資家のビザだよ。

簡単に言うと日本の企業がアメリカに投資をする。

お金を投資して、アメリカに自分の子会社をたてる。

その子会社を育てていくのはもちろん大切だよね。

その過程で、日本の企業なのだから日本人の社員をアメリカに派遣するのは当然だ。

それは投資家としてしっかりと影響力を保ち子会社を経営してゆく、という目的があるね。

この目的のための派遣されるビザをとる人がEビザの申請者なんだ」

 

「うん、そっちも分かった。個々は分かるんだけど、

実際、駐在員を出すときはどう判断すればいいのかな?

転勤っていえば転勤だし、投資っていえば投資。そこが分かんない」

 

「あはは、実は僕も分からないんだ!」

あっさりとケンも言ってのけた。

 

「だからそこを教えてよ!ケンが分からなくちゃ、誰も分からないよ!」

「まぁね。だから曖昧なんだ。LでもEでもいい。

アメリカで役員クラスのトップマネージメントに就く人がEビザであったほうがいいのは、

投資という面からはっきりしているよね。

でも彼らだってLでダメなことはないんだ。

実務担当者はLのほうがいいけど、日本のやり方をアメリカで

ゼッタイに徹底するのが経営の基本、ということだったらEビザとしてでも考えられる。

要は答えはないんだよ、やっぱり」

 

「なるほどねぇ。そこまで考えての答えなしなら納得しました。もういいです」

 

わたしはそれ以上の答えはいらないと思った。

線引きできないものも世の中にはあるよ。

それにこだわっていても、明日が見えてこない。

 

曖昧なものを残すのも、将来に繋がる永遠のミステリーさ。

だからケンも答えを出せないこと、それはそれで正解だと思ってよ。

 

ビザ 出生証明 婚姻証明

南砂町駅を過ぎてすぐに東西線は地上に出て、わたしはいつものように

窓から江東区と江戸川区の間の荒川と、その上を走る首都高を探した。

探すといっても、探すまでもなくそれは目の前にあるのだけど、

東西線と平行してかかる清砂大橋のせいですっかり視野は狭められてしまい、

わたしは毎度この景色を見る度に無神経なその橋の設計を恨んでいる。


地下からようやく地上に出て、葛西臨海公園の観覧車の色を楽しみにしているのに、

端の半分も行かない間に窓は橋の背中で埋まってしまって、また何もない景色だけ。


いつもこんな文句ばっかりなんだけど、今日はわたし、

またひとつ知った新しい知識のことで頭が一杯だった。

ビザの世界って不思議がたくさん。

ほら、出生証明と結婚証明って何のことか分かる?

普通の日本人はそんな名前の役所の書類なんかあったのかって思うでしょ。

わたしもそんなの全然聞いたことなかった。

今日、フランスの就労ビザをやったんだけど、家族ビザの申請書類のリストに

Birth CertificateとMarriage Certificateっていう聞きなれない言葉があった。

直訳すれば出生証明と結婚証明でしょ。

「ケン、これは何のこと?区役所に行けばもらえるの?」

分からないから聞いてみたら、ケンは身体後とこっちに向き直って、

でも偉そうにゆったり足を組み替えて世間話みたいにしゃべり始めた。

「そうだよね〜。普通知らないよね〜。知ってるわけないな。

いや、知ってたらおかしい!」

それでなんか一人で笑い出した。

「知らないよー。教えてよー。教えてくださいよー」」

わたしも三段式に返してみたらケンはどうやらご機嫌になったみたい。


「じゃぁ、toko。tokoとお父さんと親子関係を証明するものを見せてよ」

そう言われて困った。

いや、本当にお父さんだとは思うけど、なんか書類で、って困るよ。住民票かな?

いや、住所はもう実家からこっちに移してるし、保険証だってわたしの名前だし、

運転免許じゃないし。

「ん〜と、パスポートでどう?ファミリネームが同じだからそれで証明できるでしょ」

「弱いなぁ、それ。

万が一、親が離婚して母親に引き取られたら姓は母親の旧姓に変わっちゃうよ。

それに、例えば中国では結婚している夫婦はそれでも別姓のままだし、

ファミリーネームが同じだからって家族とは世界的に認められないなぁ。

なんかないの、他に?」

「えー困るなぁ。そんなワガママ言われても。

なるほどね、考えてみれば日本のIDに家族を証明するものってないね。

運転免許の現住所が同じだったらいい?」

「ダメ。同棲している男女は夫婦かい?」

「あーヤダね、そんなお役所みたいなこと言ってさぁ。

戸籍上っていうぐらいだから、役所で戸籍もらってこればいい?」

「あぁ〜いいね〜。戸籍にも二つあるから個人の情報のみの戸籍抄本じゃなくて

家族全員の名前が載る戸籍謄本がいいね〜」

「戸籍謄本?自分の戸籍なんて見たことないかも」

「パスポートを初めて取るときに見たはずなんだけど、憶えてないよね?」

「全然!すっかり忘れてる」


ケンはヨーロッパ各国のビザ申請書類のコピーをファイリングした

分厚いファイルを持ってきて開いた。

「これが戸籍謄本。どう?出生と結婚の証明になるかい?」

改めてじっくり見ると戸籍謄本の中には両親の名前や出生地の都道府県、

生年月日やいつ結婚したかまで入っていた。

戸籍の筆頭者は一般的にはお父さんだから、奥さんお名前や奥さんの両親の名前、

二人の婚姻日、子供の名前や両親の名前、生年月日、そんな情報が書かれている。


「toko、憶えておいて。日本で家族関係、婚姻関係、

それから自分の出生を証明する書類というのはこの戸籍謄本以外にはないんだよ」

足を組み替えながらケンが言う。

「市役所に言っても他の似たような書類ってないの?」

「ないね。住民票などで父とか夫とか本人との関係が書かれたものはあるけど、

正式なのは戸籍謄本だけだよ。

普通、世界一般的にはMarriage CertificationとBirth Certificationは存在するんだ。

日本のように姓が一致すれば家族という認識は海外では有り得ない。

民族の違い、文化の違いがあるからね。整理できないんだ」

「じゃぁ、これをどこかで翻訳すればいいの?」

「そうだね。自分で翻訳して公証役場に持ち込んで公証して、

それをビザ申請する大使館に持ち込んで認証してもらえば

その翻訳版は正式なMarriage CertificationとBirth Certificationになるね」


「うん、なるほどね。そんなの普通誰も知らないよ。ちゃんと宣伝しておいてよ、ケン」

「普通は使わないって!これこそビザの世界って感じだ。

親と、夫や妻と、子供とIDをつなげるものが戸籍謄本しかなくて、

しかもそれは僕たちはいつも持ってないし、

わざわざ本籍のあるところの役場に行かないと手に入らないんだよ。

そう思うと結構危ういものじゃないかな、日本の家族関係って」


――今日、ケンが教えてくれたのはそういうことだった。

家族関係を証明する書類、か。

就労ビザや留学ビザの申請で扶養家族の帯同ビザがある時はまず必要だとケンは言った。

そうだよね、同姓なんていくらでもいるのだし、パスポートの名前だけじゃおかしいもん。


清砂大橋を過ぎて西葛西駅に着く前、わずかにのぞく葛西臨海公園の大観覧車は

今日もカメレオンみたいに七色をまとっている。

お休みの日、あの観覧車に向かい合って乗る親子がいて、横並びに乗る恋人たちがいる。

人と人との関係、数字や文字にはできない間柄を証明するものがたったひとつ、

いや、たったひとつでもあれば間に合うのかもしれない。


何よ、このビザの世界。他人が他人を判断するってこんな表面のものしかないから、

紙も馬鹿にしたもんじゃない。

戸籍謄本一枚か。

その一枚がビザを許す、数年間共に暮らすためのビザを発行させる。

現実との狭間の広いこと!

やっぱり納得できない役所の世界にわたしは思わず瞬きした。

 

外国籍 アメリカビザ

「日本から見た外国人、アメリカから見れば第三国人だね、この方々の申請ほど緊張するものはないよ」

思えばマックスウェル弁護士は最初からそう言っていた。


「今回問題になったのは日本での滞在期間が3ヶ月と短かかったことだろう。

他は何も問題ないのだから」

海外から日本に企業内転勤してきた、とあるアジア人が

アメリカB2ビザを申請して却下されたケースが発生した。


実の兄がアメリカにH1B Visa Holderとして滞在しているので、

家族そろって遊びに行こうとしたが、ビザ却下されたことでその計画が頓挫した。

「分かっているさ、ケンのことだから書類は完璧だったのだろう?

英文残高証明やインビテーションレターに日程表、

日本の会社からの休暇証明書まで持かせたのかい?」


「もちろんだよ、家族関係を証明する書類もそうだし、

アメリカの兄の給与証明まで持たせた。

当然日本の外国人登録証は全員分あるよ。書類はどう見ても完璧だった」

「同じグループ企業で、アジアのローカル採用の社員が日本に転勤してきたわけだし、

身元ははっきりしている。

その申請者個人だって優秀な人物だったのだろうし、給与も安いわけでもないだろうし」


「そうなんだ、Master Degreeを持っていて、日本人と同じ給料をもらっている社員だよ。

家族だって子供連れで一緒に渡米する予定なんだ。

何もテロの要素はないように見えるけどね」

「じゃぁ、やっぱりその面接で担当官から言われた日本の在住暦が浅いことだけが原因だな。

窓口では1年といわれたのかい?」

 

 

パスポート写真4.jpg

 


「そうだ。アメリカビザを本国で取れないから、わざわざ日本に来て

審査の甘いところでビザを取ろうとしていると、誤解された。

日本との結びつきは確かに薄いが、会社という結びつきがあるんだけどなぁ。。。」

「ケン。そこが判断できないところだな。

昔ね、アメリカに住んでいる日本人の夫と、シンガポール人の妻がビザ延長しようとして、

日本で延長申請することにした。

問題は妻が日本の外国人登録証を持っていないってことだった。

当然だろうね、日本には住んでいないのだから」

「それはいいサンプルだな。申請は通ったのかい?」

「それがな、全く問題なくビザ発行された。Marriage Certificationだけで通ったんだ。

あとは日本の会社からのサポートレターがあったな。

日本に住んでいなくても第三国人がビザを発給された、珍しい例だよ。

まぁ、夫との結びつきがはっきりしていたからだな」


「あぁ。難しいものだな。家族関係という強力な結びつきのない第三国人は、

少なくとも一年は日本に住まないと日本のアメリカ大使館でビザ申請する資格がないかもしれないな」

「半年、という説もある。先進国の国籍なら半年で大丈夫なはずなんだ。

ここら辺は判断できないところだけどね」

「フレディ、参考になる情報をありがとう。また相談に乗ってくれよ」

「Sure!お互い様さ!」

そんなケンとマックウェル弁護士の、いつものやりとり。

 



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