子供に教育を残す

「財産は残せないけど、教育を残してやる」

昔、とある一人の父親が言ったことの意味は、大人になるにつれ、その息子には分かってきていた。


それでいいんだ、親譲りの財産に甘えるなんて自分をダメにしてしまうだけ。

自分で稼ぐお金の価値の重みを、息子は感じていたから。

教育は自分を豊かにする。

培った知識を元手に仕事をして、賃金を得ていることもあるが、それはお金の意味だけじゃない。

自分自身でなんでもできるスキルさえあれば、怖いものなんてない。

行動の可能性は無限に広がる。そこにお金は自然とついてくるものだ。


中学卒業後に、昔の集団就職のようなもので上京して働き始めた父親には

教育の大切さが誰よりも分かっているのだろう。

子供たちを成人させ、家を建て、自分たち夫婦の老後の生活費を貯める以上のお金は手に入らなかった。

言葉には出さないが、その父親は心に秘めていたはずだ。

自分に教育さえあれば、若い頃にもっと教育さえ受けていれば

 

違う人生、もっと豊かな人生があったはずだ、と。

でもそれで充分じゃないか。

家族をしっかり養ってきただけで、人生の責任はきちんと果たしている。

その息子も心からそう思っていた。


それでも、数十年分の深いコンプレックスが

その父親の言葉にはあると思うから、息子は大事に受け止めたいと思った。

分るよ、社会に出れば能力だけじゃなくて学歴の壁があることも事実だから。


自分の人生に足りなかったものを子供には残してやる。

父親のその気持ちが痛いくらいに息子には分かっていたから、

残してもらった教育を、そして与えてもらった健康な身体を、常々両親に感謝しながら生きてゆきたい。

息子はそう強く思っていた。

とある父親が言ったその言葉の真意は、こうして確かにその子供に伝わっています。

 

 





© 2006 - Ken Box