アメリカ家族ビザ 期限

「21歳の誕生日の前日。


ケン、これがアメリカの家族ビザの期限なのね」

 

ある時、受領してきたばかりのLファミリーのパスポートを見ながらtokoがつぶやいた。

 

お子さんのL2ビザシールとパスポートの写真欄をじっくり見ている。


「そうだよ、21歳になったらもう一人の大人、ってことさ」


「21歳以上になったらもう自分独自のビザカテゴリーを取らない限りはアメリカにはいられないのか〜。

 

これってどのビザでも一緒?」

 

「一緒だよ。21歳の誕生日の前日、ってことで統一されているね。

 

結構これって長いほうで、他の国では18歳とか20歳とか、もっと早い印象が強い」

 

「そうだよね、21歳で扶養家族なんてほぼありえないもん。

 

普通は学生か、もう仕事をしているでしょ。

 

21歳なのに何もしていないって、あんまり考えられない」

 

「まぁね。我々が送り出す駐在員家族は高校卒業したらFビザを取ってお子さんは留学生の身分になるしね。

 

だからまぁ、何も問題ないよ」

 


アメリカビザのルール。

 

それは色々なことを踏まえた上で決めている、まるで色々な人種のるつぼって言われるニューヨークやL.A.みたいに入り組んでいるよ」

 

そう言うとtokoは納得した顔つきでアメリカビザのコピーを取りに行った。

 

これで良かったのかな?

 

充分に教えられたかな、と毎回わたしは疑問に思いながら彼女と仕事をしている。

 



アメリカビザ 犯罪歴

「今までのアメリカビザ申請で一番困ったこと?う〜ん、困ったことねぇ。。。」

 

わたしがそう聞くとケンは腕組みをして考え込み始めた。

 

「えっ?あんまり困ったことがないのかな?さっすがに仕事のできる男は違いますねぇ・・・」

 

「いやいや、逆だよ!どれにしようか迷っちゃうぐらい、困ったことは沢山ある」


ちょっとからかってみるとすごい勢いで反論してきた。

 

そっちか。でもこれは是非とも聞いておきたいな。


「そうだね、一番困るのは、ちゃんと事実を教えてくれない申請者かな。しかも意図的にね」

 

「どんなケースがあったの?教えて」

 

「過去、一番話がこじれたケース。結局ビザは発給されたんだけどね。

 

随分前、これはまだ面接もいらなかった頃の案件だよ。


アメリカの駐在員が日本に出張に帰ってくる間にビザを更新してくれ、と依頼が入ってきた。


普通のことだからね、書類を提出して発給を待ったら、当時通常2−3週間であがってくるのに、全くあがってこなかった。

 

その人より後に申請した人が先に発給されてきたりして、焦ったんだ」

 

「うん、うん」

 

「困ったのはその駐在員も忙しい方だったから、当然早くアメリカには帰りたいし、


日本にいても仕事ができない。散々PUSHされて困ってしまったのは僕だった」

 

「やだね!典型的な板ばさみってヤツじゃない。

 

当然大使館に聞いてもいつ結果が出るなんて教えてくれるわけもないし、どうにもできないんでしょ?」


「そう。どうにもできない。

 

日本的なサービスでいうと何かしなくちゃ顧客は納得してくれないんだけど、本当にどうしようもなかった。

 

申請から1ヶ月が過ぎた日、受領に入ったらファイルが帰ってきたんだ。

 

本人出頭を要求するレターと一緒に」

 

「えっ?どうして?まだ本人面接のない時代だったんでしょう?」

 

「そう。おかしいと思ったよ。

 

レターには、指紋採取をする必要があるので本人が来てくれ、と書いてあった。

 

不審に思いながら本人に説明したよ。そうしたら、なんて言われたと思う?」

 

「えっと、すっごい話なんだから、

 

実は、わたし双子の兄弟で身代わりです、とか(笑)?」

 

「それはないでしょ〜。それはやばいでしょ〜。

 

その人はね、実は隠していたけどわたし犯罪歴っていうか、

 

飲酒運転で捕まった前科があるんです、とその時になってやっと話し出したんだ」

 

「飲酒運転?そういう種類の犯罪はビザ申請に影響あるの?」

 

「答えはYesだよ。何が問題かって、飲酒運転自体じゃない。

 

申請書DS156の質問事項で事実を隠して回答してしまったこと、

 

何らかの違法行為によって逮捕されたり有罪判決を受けたりしたことがありますか?

 

という質問に、故意的にNoと回答してしまった、その行動そのものがまずかったんだよ」

 

「なるほど。事実以前の問題で、悪意によって事実を隠して申請しようとしたって判断されたわけね」


「そうなんだ。それから本人は大使館に出頭して両手全部の指の指紋採取を受けた。

 

なんとその1ヶ月後になるよ、ビザが発給されたのは」

 

「さらに1ヶ月?申請してから2ヶ月かぁ〜。それは業務に支障が出るでしょうし、

 

そんな自己都合で会社に迷惑かけたら何がお咎めあるかもしれないね〜」

 

「そうだね。どうも指紋をとられてからの1ヶ月の間に、

 

アメリカ大使館は本国のFBIにその指紋データを問い合わせしていたらしい。

 

つまり、ビザを発給しても問題ないような割合軽い犯罪だったのか、それとも重い案件だったのか、って」

 

「なんだかすごい話になってきたわね」

 

「だろう?それで結局はビザ発給になったけど、

 

ビザシールの追記欄、Annotationのところにビザ却下には該当しない経歴、と追記されていた。

 

だから、これは結果論だけどね、最初から質問事項にYesと回答して、

 

自ら証拠書類を全て提出していれば通常の2週間でビザはおりたかもしれない。

 

今となっては分からないことだけど、そういう考え方もあるんだ。

 

何もかもがダメじゃない。逆に、スピード違反1回でその欄をYesにされても困る。

 

もっと思い問題の場合、ってことさ」

 

「なるほどね〜。なんかすっごくためになるお話が聞けた感じ。

 

やってしまったものは仕方ないから、素直に話して判断を委ねた方がいいってことね」

 

「そのことがあってから、DS156を作るときの質問書はよくお客に説明して書いてもらっているよ。

 

軽犯罪でもいいから、何か気になったことがあれば相談してくれ、と。

 

黙って虚偽の申請をすることのほうが深刻な問題だ、と書いてからはその種のトラブルがなくなった。


本当に色々あるものだよ、アメリカビザ関係は」

 

ケンがため息をつく。

 

また仕事に戻りながらわたしも考えちゃったけど、このビザっていう仕事は日常生活に足を下ろしていないようで、

 

実は結構人間の最低限のモラルが問われることもあるんだな、と思い返していた。

 

 



ブラジル人 アメリカ通過ビザ

「それでかわいそうなことになったのが、ブラジル人の方々だ」

 


そう言われて、わたしはコーヒータンブラーを持つ手を止めた。

 

ケンに言われるとよっぽどのことがあるんだな、と薄々感づくようになっているから。


「そうしてアメリカは全外国人に入国時の指紋採取と顔写真撮影を義務付けたよ。

 

この生体認証技術の導入によって、指名手配中の犯人が数千人単位で捕まった、というプラスのことはあった。

 

でもマイナスのことがね、まずは入国時にかかる時間のロストのことを考えれば

 

物凄い損失になるのだが、もっと目に見える反応をしたのがブラジルなんだ」

 

気が向いたから3時のコーヒーをケンにも入れてあげて、

 

またわたしがしつこくアメリカビザの難しい質問をしていたら、話がこっちにそれてきた。

 

「いい?ブラジルから日本に来るときに一般的なルートはアメリカ経由なんだよ」

 

「ってことは、アメリカがトランジット客もすべて入国する、というルールを作ってしまったら、

 

まさかブラジル人はみんな入国?まさかビザがいるの?」

 

「そうなんだ。ブラジル人だけじゃないよ、

 

南米やメキシコの方々もアメリカを経由する限りはビザが必要だよ。

 

ブラジルは日系人が多いから、これは深刻な問題になった」


「アメリカを通らないルートはないの?」

 

「ヨーロッパ経由だね。ただ、料金が高くなる。それも数万円単位で高くなるからあまり賢明な方法ではないんだ」

 

「それはかわいそうじゃない。ビザなんか取れるのかな?」

 

「ちゃんと申請すれば取れるけど、トランジットビザというアメリカビザのカテゴリーはC1ビザになるね」


「もちろん面接ありでしょ?」


「あぁ、それもかわいそうだ。時間もそうだけど、金銭的なデメリットが大き過ぎる」

 

「ちょっと聞くに堪えないお話ね。アメリカの言い分も分かる気はするけど」

 

「toko、すごいのはブラジル側の反応なんだ。

 

報復措置として、ブラジルに入国するアメリカ人に限り、やはり指紋スキャンと顔写真撮影を義務付けた。


これでアメリカ人だけが、入国の際に長蛇の列を作ることになったんだ」

 

「思い切ったわね!それもアメリカ人だけ、なんて露骨な報復じゃない」

 

「それにビザ料金もアメリカ人にだけ高くした。ブラジルは怒ってるんだよ。

 

これは僕がずっと恐れていた負の連鎖、報復のビザルールだけど、

 

一石を投じる意味ですごく大事なことなのかもしれない。

 

だって、全員が面接の上にビザを取るなんて本当に迷惑なお話なんだしね」

 

「でも。。。世界中に広がらなければいいね、そういう報復とか仕返しとかが」

 

わたしもしんみりコーヒーをすすりながらそう言うと、


ケンは机の中から美味しそうなチョコレートを出してきてわたしにくれた。

 

「そうだよ!・・・で、なんでこんな話になったんだっけ?」


とぼけて言う。

 

「だから、JL048便でニューヨークで1ストップしてサンパウロに入るケースは

 

アメリカに入国するの?ってわたしが質問したんでしょ」

 

「あぁ、そうでしたね。荷物は受け取らなくてもいいけど、入国は必須なんだ。


そうでした、そうでした。まぁ、まぁ、そのチョコレートでもどうぞ。


ベルギー帰りのお客さんからもらった美味しいやつです」

 

ケンはそんな感じで話を明るくまとめていったけど、

 

アメリカビザへの明らかな報復行為が行われている、と知ってわたしの心は暗くなった。

 

互いを信じる良い心なんて、現実の世界ではまだまだ先なんだと知ってしまったから。

 

 



アメリカビザ 偽装結婚

「ケン、これは昔のことだよ、今現在の話じゃない」

 

溜池山王駅の改札を出てアメリカ大使館へと向かう長い地下道、隣で歩くフレディが思い出したように話しかけてきた。

 

「大阪に住む知り合いの弁護士から電話が入ってね。家族のL2申請で、

 

ちょっと変わったことが求められたケースがあったんだ」

 

「ほう。変わったこと?」

 

「そう。よくあると思うが、夫が渡米した後に入籍した妻だけがL2を申請するパターンだよ。

 

ケンはいつも何か婚姻関係を証明する書類をつけているかい?」

 

「結婚したばかりの夫婦の場合もそうだけど、戸籍謄本を僕が英訳してサインしているな。

 

それは毎回やっているよ」


「ケン、それが正解だ。まさかパスポートの名前を直しただけでもう家族関係が証明できたと思い込んではいないだろう。

 

ところがね、それ以上のものを要求されたケースを聞いたんだ。

 

それはね、入籍してから一夜でもひとつ屋根の下で共に過ごした事実関係が


あるかどうかの確認を求められたという」

 

「フレディ、そいつは聞いたことがないな。ひとつ屋根の下での一夜?

 

なんだかどこかエロティックな感じもする言葉でたまらないね」

 

「ははは!本当だよ、ケン。なんだから事件の匂いがプンプンする言葉だな!

 

これがな、どうやら偽装結婚ではないことを証明するための方法らしい。

 

ひとつ屋根の下での一夜、イコール、夫婦関係がある、と」

 

「なるほど。でもそれは証明が難しいな。すでにアメリカに駐在している夫は

 

入籍後に一晩でも新妻を夜を明かさないといけないってことか。

 

それは誰でも喜んで受け入れられる話だろうけどな」

 

「ケン、もっとすごいのはこうだ。もしも一晩でも共に過ごしたことがない夫婦の場合は

 

最初からL2はおりずにB2が発給され、米国で夫婦としての生活の実態を作った後に

 

I−94をL2ステータスに切り替え、その後米国外でL2を申請して再入国する、

 

という説明があったらしいんだ」

 

「おぉ、なんだかえらい話になってきたね、フレディ。

 

それはなんていうか、ルールに忠実すぎる運用だと思うけど、まぁ理屈としては分かる気がするよ」

 

そんな面白いネタで盛り上がっていたら、13番出口が見てきた。

 

あそこから上がるとアメリカ大使館はもうすぐだ。

 

「偽装結婚とは日本ではあまり聞かないフレーズだし、

 

ましてや我々のように大企業のビジネスマンを相手にビザの話をしていると、なんだか宙に浮いたような奇妙な話だろう?

 

でもねケン、世界中ではそういうケースもあるということなんだよ。

 

立場を変え、視点を変えて見てみるときっと他にもそんな話が転がっているかもしれないね。


また面白い話があったらお聞かせするよ」

 

地下鉄駅から地上にあがって、角を曲がるとあのアメリカ大使館が見えてきた。

 

あそここそモンスターボックス、色々な文化も問題も、何もかも呑み込んだ大きな存在だ。

 

 





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