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光秀が信長を討った95%の理由 「光秀95%」7話

投稿日:2017年4月9日 更新日:




妬ましいから、悪魔の暗示をしよう。

信長と光秀、あなたたちの真ん中に勝率95%を置いたらどうなるの?

あなたたちは今まで、共通の敵に対してのみ勝率問答をしていたようだね。まさか、二人の間に95%が入ってくるとは予想もしていないだろうが、どんな反応が起こるか、僕に見せてよ。

能力の高いあなたたちを崩すのは、凡庸な僕だという意外?顔も持たず、図体ばかりが大きい僕なのに。

今の二人の関係が続くのなら、永遠に気付くことがないものを、この賢くはない僕が引き合わせてあげる。悪ではないよ、それもまた人生。盲点があったままでは不自然だ、僕が二人に変化を打診してみよう。

黄金の掌から、僕はしずしずとボールを投げる。

光秀よ。あなたが今、信長を討てる勝率は95%なのではありませんか?

遠く離れた亀山城の一室。突然、光秀は頭を強打された。

庭から風が吹いただけなのだが、とてつもない異説が考えの中心に割り込んできて、暴れ、狂い、思考を混乱させ、停止させた。あまりの気持ち悪さに光秀は吐き気を覚えたが、その数秒後には脳が明瞭に動き出していた。

あぁ、俺が今、信長を討とうとしたら確率95%で成功する!

毛利家との戦への道中で京の本能寺にいる信長、供は馬回りのみで数百人もいない。護衛しているのは誰だ?俺だ、明智家1万の兵だ。兵力差は10倍以上、籠城戦ではないから勝率50%。

信長一人を討つのは容易。その後で我が明智家が生き永らえる見通しが立つか?

立つ、簡単に立つ。

信長の傍には嫡子の信忠もいる。二人同時に討てば織田家の支配力は消滅する。

ライバルはどうだ。

柴田勝家は北陸で上杉家と、羽柴秀吉は中国で毛利家と、丹羽長秀は四国で長宗我部家と、滝川一益は関東で北条家と、それぞれ直近の戦いを抱えており、すぐに近畿へ取って返せる状況ではない。戦況で20%。

俺は近畿管領であり、地の利に恵まれている。近辺の城も道も指揮下にあり、細川家・筒井家・高山家ら、与力の本領は近畿一帯だ。

人の利として、与力らの他に将軍や公家の後押しが得られる。絶対君主が消えたら、織田家臣の中から我が明智家に従う者が出ることは間違いない。

時の利、これが特に強い。今の近畿に敵はいない。織田家親子は無防備な範疇にいる。もう一人、徳川家康のことを忘れてはならないが、今は堺に物見遊山に来ているではないか。俺が行動したとして、すぐに障害になることもない。そうだ、信長親子を討った後、俺には体制を整える時間まである。

地・人・時で30%としよう。合わせて勝率100%。

何がリスクか。大軍で囲んだとして、その場の運で信長と信忠のどちらかを取り逃してしまうこと、その5%だけ。

「!」

光秀は怖くなって目と耳を塞いだ。

なかなか95%の到達なんてない。理想だが、現実は難しいもの。しかし、この戦では冷静に考えて最初から95%が担保されていた。

「!!」

どうして、信長を主君ではなく敵とする発想が入ってくるのだ?そもそも、それがクレイジーな考え。

「!!!」

逃げようと立ち上がったが、光秀は尻餅をついた。彼の鋭い思考能力が彼自身を捉えて放さない。

95%が光秀と信長の中間にぶら下がっていた。こんなこと、起きるはずがない。唐突に浮かび上がってきたアイディア、登場と同時に確実性を保証しているなんて。

今一度、95%の根拠を読み返してみよう。どこかに落とし穴はないか、5%が裏目に出て、明智家に危険が及ばないか。

この95%に信長が気付いたとしたらどうだ?自分が滅びると察知した瞬間、信長なら迷わずに単騎駆けして今の死地を離れるだろう。今離れているところかもしれない。もう離れたかもしれない。

信長個人を破壊できないことが勝率マイナス5%に値するのなら、俺の95%は信長が気付くか気付かないかで道が分かれる。不安定なことだ。

気付いているのか?まさか、これは信長から仕掛けられた謎かけではないか?

思い出せ。つい3ヶ月前の武田家を滅亡させた戦では、明智家の軍勢が信長護衛軍として用いられた。あの時と今に何も違いはない。最も信頼されているからこその護衛軍と考えるべきではないのか。

もう立ち上がれる。興奮した脳、強張った頬を水で冷まして思考の位置を変えよう。失策を生むわけにいかないのは毎日のことだが、俺は今、特に大事な案件を判断している。

たっぷり30分をかけて冷静に努める。自分の興奮・甘い考え・陶酔に付き合うな。自分がどうしたいかではない、この状況で実行したら事がどう運ぶかだ。合理冷徹あるのみ。

読み切ったり。

光秀は深い考えから頭を上げて、迷いを捨てた。

この95%に疑問はない。信長を討つ理由は何一つないが、95%が目の前にある以上、俺は信長を攻める。今、信長は天下布武への勝率95%を得ているが、それを瓦解させるまさかの5%を俺が引き起こすことになる。

95%が目の前にあれば飛びつくべし!と信長とも笑って話し合ったことがあったな。

これはどうしたことだろう?天から95%が突然に降ってきて、これまで自分が大事に築いてきたものを自分の手で壊さなくてはならない?悪戯にも程がある。

沸いてきた切欠は不可解だが、納得する必要もないか。95%だから、俺は従わなければならない。それだけ。

心を転調させた光秀。すると、次に動かすべき軍略・政略が湯水のように沸いてくる。一度思いついた95%に後戻りは効かない。考えれば考えるほど、この成功が95%だと分かってきた。

自分の才能と狂気を、生きているうちに出し切りたいとはかねがね思っていた。忙しいことだ。俺の仕事の集大成とも言える働きが次に待っている。

俺が信長の未確定勝率5%になる?散々協力し、95%を高めておいて、最後にそんな裏返しをこの俺が招くなんて。

二人の95%の高め合いはもう趣味の世界だったから、こうした行動も信長は理解してくれるかな。面白いと笑ってくれるかな。

そんな考えをしていた時、光秀は自分の甘えに気が付いた。忘れよう、楽しむな、意味などない。合理徹底の中にしか俺の生きる道はないのだから。

光秀は脇差を目の前に置いた。

これを95%と仮定しよう。取るべきか、否か。

1秒の後、95%に伸ばした手の軌道に躊躇はなかった。

こうして、光秀は本能寺の戦を仕掛けた。その後の結果は歴史が語る通り。

織田信長は討たれ、明智光秀の三日天下は成ったが、中国大返しをしてきた羽柴秀吉の前に、明智光秀もまた討たれている。

光秀の95%がどこで転んだかは分からない。

僕はこうなることを知っていた。

奈良の大仏は黄金の掌を差し出したままで、光秀95%の一部始終を見ていた。東大寺大仏殿の戦いで大仏殿と頭部を焼かれた大仏だから、寺の敷地内で雨ざらしのまま。見ていたと言ったが目もない。

本能寺の戦いへ自分を駆り立てた原因が分からないと光秀は言った。

僕にも分からないが、別に理由なんかいらないじゃないか。

考える者は、考えない者を95%は打ち負かす。ただし、考える者が負ける5%は、考えない者が考えないで取る意外な行動によるもの。世の道理は、ループするミステリー。

見渡せばどこにでも95%はある。意識の95%と、無意識の5%が。

どうして、信長は光秀に裏切りされないための策を95%取らなかったのか。いやそれも取ったと想像できるのに、5%で敗れたのか。

どうして、光秀は秀吉らに倒されない算段を95%取ったのに、天王山の戦いで秀吉に勝つことができなかったのか。

秀吉の95%は何だったのか、考えたのか、考えなかったのか。

95%を1%刻みで100%に近付けるため智を競ったはずの信長と光秀。二人の最終形が二人の間での戦いになったのは何故。

光秀は信長との95%の理論を試すために本能寺に向かったが、その結果が出た後はどうでも良くなってしまったように見えてならない。95%の光秀としては、本能寺の後の動きがあまりに鈍い。秀吉の意外の5%が鋭すぎたという見方もできるのだが。

信長がいない世界に改めて気付いた時、光秀はその先のことに興味を失った?まさかね。

この世に完璧などいらない、人はごちゃごちゃと生きるものだ。

信長と光秀、二人は95%で勝ったような、負けたような人生。どっちなのか、そこに理由があるか、誰にも分からない。残ったのは自分通りに生きて死んだ二人の姿だけ。

深く考えない者は弱いのか、強いのか。信長と光秀を死に至らしめたのは奈良の大仏の黄金の掌だ。そこに明確な意図はなかった。

95%に意味はあり、意味はない。事がどうなるか、誰に分かるものか。

95%は本当に95%なの?自己満足で積み上げただけの数字が、世間から見た公正な95%とも限らないじゃないか。理論の遊びをしたに過ぎないよ、信長も光秀も。

奈良の大仏は笑ってそう語っていた、顔を失って笑えないはずの奈良の大仏が。

明智光秀は勝率95

 

小説「光秀95%」完

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