小説「未来都市計画」開拓移民者と夜行列車旅の行先

ここへ住みついてもう27年にもなります。

私が移ってきた当初と比べればここもずいぶんと便利になったものです。

本土とも最近ではわずかに69時間19分という最速記録が出ましたね。

――というのも私が来たときには20日と7時間もかけなければならなかったのですよ。

私たち第一号移民がここに住みつき、開拓するまでは

こんな不便な不毛の土地には人間は定住できないだろうと言われていましたね。

ところがどうです、今や本土から人がゆとりのある土地と生活を求めて

住みつくようになり、現在の状況ではここに住む人たちぶんの食糧・物資は

自給自足で充分満ち足りるようにまでなりましたよ。

そして、いつか本土に住む人たちの常識をくつがえしたここの裏側、

奥底に住みついていた生き物たちもこうして誰もが親しめる存在になりました。

後からは何とでも言えるものです、今さら学者たちが当然のように言っていますね。

長すぎるくらい長い間本土から切り離されていたこの土地に、

未知の、本土のものとはだいぶ種の異なった生き物が

住んでいることに何の不思議もない──などと。

勝手なものですね、知らないことは素直に認めれば恥より今度の自信となりますのに。

移住してきたときはやはり広い広い海と何もない大地しかありませんでしたよ。

私のような若くて腕っぷしの強い男たちが幾人かで集まり、

まず新世紀を見据えた都市計画をつくりあげました。

私たちはどこかで気付いていたのですよ、こここそが新時代を切り開く新天地となるだろうことを。

本土のどの既存の都市とも違った、そう、古典的美感覚を保ちつつもあくまで来るべき

新時代を先駆けるイメージの未来都市計画でした。

歴史がないだけ逆に何もかもが斬新になるように、

そして世界がきっとその方向に動いてくれることをせつに願い、

始めの計画を重要視して取り組みました。

本土の1/4ほどといってもなにしろ広いですからね、

開発もまだ全体の1/6ぐらいでして、裏側や奥のほうにはまだまだ重みをかけていませんよ。

ほら、こうしてあなたが立っているこの場所も海を埋め立てたところなのですよ。

交通の便を二重、三重にもまず第一に考え、直線と方向にふんだんの活きの精神を取り入れ、

例えば、あなたの場所なら丁度上手い具合にあの記念堂が記念塔に隠れて見えるでしょう、

そんなふうにどの要所も何かしらかけてあるのですよ。

そして新世紀を見据えればこそ、公園に、緑に造園学の粋を取り入れ、

余計すぎるくらいスペースを割きました。

人工とはいえ、大都会のなかとはいえ「人間と自然の共存」――それを大切に、大切にしました。

人工の川をひくのは大変でしたね。

しかしそれは特に私が固執し続けたのです。

これは私個人の希望だったのですが、あの赤い橋をどうしても、と架けさせました。

ごらんなさい、穏やかな川の流れ、優しい風のなかに象徴として赤い橋が架かっています。

実に私の思い描いていた通り、あの川辺は今や恋人たちが恋を楽しむ、

愛を語り合う場所として愛しまれています。私個人として最も光栄なことですよ。

あの場所に夜座れば眼前にはるか遠く、本土の灯かりが見えます。

それは人の心を惑わすものではなく、見ても青と白にしか見えませんが

毎月15日には確かに、オレンジのかかった黄色に見えるのですよ。

そのロマンティックな灯かりを眺めながら恋人たちが肩を抱き合います。

それだけで私の心は満たされます、世代の交代をさせるのが

かつての栄光への感謝――と私は信じていますからね。

太陽が沈むのは背中となります。両方は無理ですからね。

けど、その分時を忘れ、微笑みをかわし、気付いたときには太陽は沈み、

暗闇が薄紫に空をおおうようになるのですよ。

闇をまとい、肩を寄せ合いながら灯かりを見詰めるのはそれからです。

……私もよく灯かりを眺めています、一人で、いつまでも。

――そう、全ては私自身への鎮静歌、というのが本当のところなのです。

私がまだ本土にいた頃の、まだ若すぎた時代の頃のことですよ

………おや、ずいぶん話が飛躍してしまいました。

さて、最近では摩天楼群が建て並び始めましたよ、

これには大変な議論、討論をまきおこしましたが。

しかし、政治・経済・文化の3つがどこか一点に集中し、

まとまり合うのは、これは仕方のないことです。

――とはいえ、これもまた未来都市計画の理想範疇にもれません。

ロマンティックを基とした自然と人工の美の見せあい

──そのため摩天楼群建設にあたりひとつ外見上の要求を課しました。

大自然の在野の偉人から受けるような想い、

一人の人間のちっぽけさを感じさせること――です。

これは人工では決して真似できない自然美への

敬意とお返しを含めた人工美の追求なのです。

ここへ来る前のことですが、私は本土の美しい自然美を求めて旅したものです。

そこで知らされた自然の偉大さ、人間などでは到底届かぬ美しさを教訓とし、

この新都市計画には人工美を大きなテーマとしたのです。

――清潔な美しさ、加えて都市美の追求です。

あの自然美に恥ずかしくないような、ただ見て回っただけではなく、

確かに何かをつかんでいたということを在野の偉人たちにお返しするため、

私は計画を重ねていたのです。

まぁ、本心を語ればいくら人工美を追求したところで

自然美の深さには及ばぬところ、とは分かっていますけれどもね。

それでも、世界の美の競演の一環としては何かしら意味のあるもの、と誇りに思っています。

建物・街の構造は整いました、私たちの理想を満足させて。

次の問題は人でした。人間です。

すこしづつ人が移ってくるにつれて、初めの頃の全員一体感は薄れてゆき、

村から町、町から都市となり、そして私たちのコントロールが届かぬところまで至りました。

本土から様々な人種・宗教・文化・言語を背景に持った人間が渡ってきました。

実に多種多様、今ではある一種だけの人を見つけることこそ不可能になりかけましたね。

これは新世界・次の時代を見据える上で素晴らしい題材となりましたよ。

世界中の交流が一層深まり、重要視される次時代のなかで、

人種のるつぼ、その題材がおのずからここにはそろってきたのです。

数々の過去の痛みを越えて、この土地では

誰もがゼロから平等に始められるのです、始めなければならなかったのです。

問題は山積していましたが、何より深かったのは言葉の壁でした。

他のどの壁よりも交流し合うのに抵抗を生みます。

しかし今や言葉以外の壁は、例外はあるとして、私には無力化したと感じることができます。

自分固有の文化をよく理解し、保ちつつも他文化を理解し合い、

共存すること――本土でもそれは進歩していることでしょうが

ここでは全くの新しい土地だったため進歩には目をみはるものがありました。

まぁ、まだこの新世界は若い。

後には本土からの独立をうたう日が来ることでしょう。

本土の固定観念とは違うものを持つのが美徳なここではそれは避けられないことでしょう。

ここは新しい時代の人間交流を先駆ける場所です。

ごらんなさい、個性豊かで様々な人間たちが共に生き、

子供たちが混ざり合い、素敵な笑顔ではしゃぎ回っています。

これこそがあるべき新しい世代の姿なのです。

ただここの裏側、奥深いところにはるか昔から住み着いていた人々との問題は今も絶えません。

あらゆる違いの壁が我々の間に存在します。

そして私たちもこの土地を私たちだけの勝手で開発し

彼らの住む場所を狭めてよいものか、彼らの時代を考えず

私たちの新交流時代に巻き込んでよいものか、と真剣に考え抜いています。

純粋な彼らの暮らしを壊してはならぬ。

強いるのは絶対に避け、彼らが望むのならば

――実際彼らは望みつつあるのです――

私たちは彼らの望む通りの交流を持ち、急すぎる刺激を避け、私たちにできるベストを考えています。

言い換えればこれは新時代を占う大きな問題であり、チャンスであるのです。

新人間交流――これも整いつつあります。

実に理想に近い状態で進みつつあります。

これから時を重ねれば重ねるだけ、壁は狭まりゆくものです。

人間の問題も私たちを満足させるものなのです。

土地・人間。

まぁこれが私たちの初歩的であり最も強い未来計画でありました。

それを進歩させつづけ、守り続けてゆくにはやはり三権というものが不可欠でした。

しかしこの土地では本土のように他国との争いは存在しません。

信じられないくらいに個人の常識とモラルに自治を任せることができるのです。

新世界を見据えれば見据えるほど原始的なモラルが大切な、重要なものとなっていきました。

最低限の小さな政府が街をつくり、人のために施設を整え、

次第に大きくなる経済の流れをコントロールします。

法に至っては実にシンプルなものです、基本的には一文です。

「他人に迷惑をかけずモラルを尊び自分のやりたいことをしなさい」

ここでは自由の与えられる程度が大きいのです。

すると当然、義務が、自分自身のことについての責任が同時に重く課せられます。

責任なしには自由なし──モラルを尊ぶ人々にとってこれ程の幸せがありましょうか。

人と人との問題には、もちろん裁くことが必要となります。

人生経験豊かな、人間味をふんだんに持ち合わせた裁く側が

時には痛みも伴う決断をとり、モラルの下に公平な裁きを──との理念で裁きます。

裁判さえも個々のモラルにたよるところが実に多いのです。

そして、ここでは犯罪というものを蔑む傾向が見られます。

加えて特別な夜に暴力本能を刺激する狂気の影響もありません。

皆、心の豊かさを持つようになりました。

大都市でありながら小さな喜びをつくることが美徳とされ、偶然でも隣にいた人と楽しみを共にするのです。

幸せだけに包まれてもここでは悪くない――ありえないことではないのです。

誰もが努力したぶんだけの栄光を手にできるよう、政府は動きたいのです。

犯罪を巻き起こす基本的な構造――「貧しさ」を無くすことは重要な政府の課題です。

誰にも職を──心の豊かさを持つためにも欠かせぬ、大切な社会の基礎です。

心の豊かさを求めるには金のこととはあまり関係ありませんが、

経済的に貧しければその分だけ心を求めづらくなってしまいますから。

──そして犯罪は影をひそめる。

犯罪を生むのは人間の闇の欲望、皆それをどこかで解消しながら、

消化しながら街の雰囲気をつくりあげるのに努力を惜しみません。

犯罪などは心の貧しい者のすること

――ここではそんなことを自然に感じながら人が歩くのです。

心を求める人間こそ美しい。

もちろんこの素晴らしい雰囲気を守るため軍隊・警察は存在します。

しかしあまり表舞台には出てきません。

本土と遠く離れたここでは外国との蛇足の繰り返しである

不条理な軍事費拡大競争などないですし、警察以前に個人のモラルが問われます。

それ程に個人の自治が生きるのに大きな割合を占めています。

この新時代だからこそ人をまとめることができるのは個人のモラルによって――でしょう。

人をまとめる側としての形の理想を自分の任務と心得、

打算なき仕事により自分の心の豊かさを切に願う人々により政府は形成され、

その鋼の意志は複雑な問題にも妥協を通し、和解を生みます。

無意味なことに金・力を注ぐのを慎み、人のため何ができるのかを考えていてくれている

――と知っている人々は彼らに喝采と栄光を一層贈ります。

新時代だからこそ個人のモラルがより求められる。

時代が進めば進むだけ単純な、プラスなことが大切となる。

言わば人として当たり前なことが美しい──それこそが新時代なのです。

新時代は「心の豊かさ」がテーマなのです。

開拓当時は本土が経済的に支援してくれましたよ。

最初は科学調査か何かの目的だったのでしょう。

しかし、ここに足跡を踏み落とした者は皆一時の調査だけではなく

将来の展望を見ました、そして自ら住み着く気になりました。

それ程この地には人をひきつける魅力があります。

私のように本土から見るこの地の輝きの美しさに魅せられ、

そのロマンティックな灯かりを愛し、住み着くことを決意した者も多いですね。

最も、この地は本土から見る以上に素晴らしいところです。

まず神秘的に天が輝きます。

夜ともなれば星に息がかかりそうな程近い。

宇宙は近所のようなものです。

本土から眺める月に近いサイズで幾つもの星が輝きます。

本土でいう星か月か──無数の小さな輝きか、ひとつの大きな灯かり、どちらを愛すか

──もロマンティックですが、ここでは月並みの大きさの星が幾つも夜空に輝き、

それはもう言葉を絶して神秘でロマンティック──。

そう、本土の灯かりも遠くから眺められますしね。

その一点に惚れて住み着いた者が大半です。

彼らは新しい星座を数え、伝説を創造し、ロマンティックな芸術に生きます。

そのためにここに街をつくるのに熱心でした。

他のある者は自分自身や生活の全てを変えるため移ってきたり、

本土の生活が貧しかった人が移ってきたり、特別な理由を持っていた者など、

いずれにしろ初めの頃移ってくる者は

僻地といわれたこの地の暮らしに耐えなければなりませんでした。

本土の灯かりとこの地の灯かりを前後に見ながら渡ってくるのです、

その長い時間の間に思うことはひとしおではなかったはずです。

そんな人々が集まりひとつの新世界をつくりあげようとしたのです。

理想のもとに、希望のもとに。それが新時代の幕開けでした。

当時この地に来るのは調査団か物好きな旅人たちだけでした。

誰も開拓しようとは考えていませんでしたね。

それだけ本土でのイメージが不毛の土地、という一点に固まっていたのです。

言われてみればこの私が最初の開拓移民者ということになりますね。

え、何故私がこんな土地に住み着く気になったか、ですって?

ひとつは先述べた通りこの地の美しさに魅せられたからですよ。

まぁ、それはこの地に住み着いてからの理由ですね。

きっかけはあくまで偶然なことでした。

私自身でもまさかそのまま住み着くことになるとは思いもしませんでしたよ。

そうですね、まぁ、当時私は情熱を傾ける対象を失っていました。

私は私のなかで絶対な心の寄りどころだった愛する女性を失っていました。

理由は聞かないでくださいね、一人になってからの生活は哀しみだけが見え、

やがてその痛みは仕事への情熱を欠けさせることになり、

全てを闇に閉ざすこととなったのです。

その当時は最低な人間にまで堕ちていました。

しかし私の野性は、情熱の瞳は消えることはなかったのです。

自らを投げ捨てる日々のなかで逆に心の炎は一層つのるばかりでした。

そんな時に目の前に与えられた真っ白な紙、

自分がゼロから築きあげるか否かの賭け、

偶然とはいえ与えられたそのラスト・チャンスを逃がす気にはどうしてもなれなかったのです。

もう一度ゼロからの始まりに私は情熱を燃やしました。

その結果、偶然来たこの地に私は残ることを決意し、

後に仲間を集め未来都市計画をつくりあげることになったのです。

あれも今思えば偶然ではなく必然、としか考えられませんね。

まぁ、笑い話にはなるので私がここに来る直接のきっかけとなったその偶然の出来事をお話しましょう。

ある時、尾紋という田舎町に仕事で行くこととなり、

唯一の交通手段である阿山11号という夜行列車をつかまえようとしたのですよ。

ツキがなかったのでしょう、普段は時間に正確な私が偶然が重なり、

駅へ駆け込んだ時には出発時間ギリギリか、数分遅れているかになっていました。

出発がだいぶ遅い時間ということもあり、他に列車もないだろう、

と勝手に決めつけてまさに出発しようとしていた

2両編成だけの夜行列車にとびのったのです、他のホームに列車はなかったですから。

時計を見ると同時に列車は走り出し、内に入るとやはり人が全然いません。

重装備の旅人たちがほんの1グループだけ、

彼らからなるべく離れた一番前の席を選び私は座りました。

気分的にどうしても会話など交わす気になれなかったのです。

──その時はまだふさいでいましたからね。

車掌が切符の点検になかなか来ません。

1時間ほど資料整理をしていましたがまだ来ません。

着くのは明日の昼の予定です、疲れていた私は座席を倒し、コンタクトを取り外し寝てしまいました。

待ちきれませんでしたからね。

ぐっすり眠った記憶があります。私はどこででも熟睡できるタイプなのです。

もう昼近い頃かな、とどこかで意識しながら目を覚まし、

鏡のあるトイレに顔を洗い、コンタクトをつけるため入り、

頭はまだ回転しないまでも目だけを覚まして出ると、丁度初めて車掌と顔を合わせました。

「切符を拝見」と今さら言う車掌に「ずいぶん遅いですね」とからかうと、

「どうせ止まる駅はありませんから」と車掌は言うのです。

眠ってる頭から記憶をひきだすと確か幾つか止まる駅があった気がします。

まぁ、気だるさにそのまま流しながら切符がポケットに入っている上着を取りに席に戻ると、

朝らしかぬ車内の薄暗さにやっと気付きました。

驚いてカーテンを開け窓の外を見るとなんとレールもない空間を列車が走っています、飛んでいます。

さっきの車掌の言葉もあり明らかに何か妙な列車に乗ってしまった、と驚愕し、

後ろについてきた車掌に「なんだこの列車は、どこへ行くのだ」と叫び尋ねました。

「どこへ、って――」すると車掌はあたかもそれが当たり前、といった事務的な声色で答えたのです。

「──月へ行くのですよ、お客さん」