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エルパソ→カールスバッドシティ 見習い芸術家の冒険15話

投稿日:1996年9月6日 更新日:




9月6日(金)

  朝、今日で引き払うことにしたので2泊分をキャンセルしたい、とユースホステルに申し出た。すると、一度もらってしまった代金に対しての払い戻しは一切できないんだよ、とフロントの優しい人は申し訳なさそうに言う。アメリカでは1泊分ずつ料金を支払うんだ、これはいい教訓だからよく覚えておきなさい、と諭された。13.5ドル×2泊分は大金だ。それだけの金があれば、腹一杯飯が食べられる。切りつめた冒険旅行をしている身だからそういうことが頭によぎってしまい、かなり不機嫌だった。

  そのフロントの人から別件でグッドニュースを聞かされる。このユースホステルに泊まる、とさっき電話をかけてきた日本人がいて、彼は車でホワイトサンズとカールスバッドへ一緒に行く仲間を探していた、とのことだ。バッドニュースの後のグッドニュースと喜び勇み、その人の到着を待つことにした。

電話ではすぐに着くということを話していたらしい。もし、そいつがレンタカーを借りられるヤツならば全てが上手くゆく。こんなに美味しい話はない、ここはこれに乗ってみるしかないだろう。その一方、このような旨い話に一日を振り回されたくはないので、二人はカールスバッドシティへのバスが出る時間ぎりぎりまで待ってみることにした。

もしもそいつが本当にレンタカーを借りることができるのならば、みんなでサングラスをして、ロカビリーをフルボリュームでかけながらアメリカをドライブできる!そんなことを二人で話しながら待ち続けたが、それは儚いゆめ物語だったようだ。

  タイムリミットが来たので、フロントの人に2日分の宿泊料もレンタカーの話も諦めるよ、告げると「またこのホステルに泊まるようだったら2泊分タダにする」とレシートをくれた。気持ちは嬉しいが、この街にまた滞在するようなことは有り得ない。フロントの人の気持ちだけをもらうことにした。

バスの乗り継ぎ関係で、ホワイトサンズから戻る時に寄ることにはなるので、テントなどの邪魔な大荷物をこのユースホステルに預かってもらうことにした。たった2ドルで引き受けてくれたので、そこはぴったりと話が合った。

  なんと忙しい朝なのだろう!バスの出発時間ギリギリになり、二人は物凄い勢いでバスディーポまで急ぐ。なんとかカールスバッドシティへのバスを捕まえ、出発間際にジュースを買おうとすると今度は自動販売機にまで僕を馬鹿にする!大金2ドルを自動販売機に食われたのだ!僕はやりきれずにバスに乗る。なんだかこの出発の朝はどこまでもついていない。それでもこれからの冒険が上手く行くのなら許してあげるよ──。

  例の乾燥地帯特有の景色を眺めながら、いつの間にか眠っていた。途中、ホワイトシティというカールスバッド国立公園のすぐ側の町も通ったが、バスは止まらずにその先のカールスバッドシティまで行く。バスは町外れのディーポに着き、とりあえずその場で帰りのバスを押さえておいた。ディーポから出て、モーテルや大きめのホテルに洞窟までの送迎のことを聞いてみると「この時間じゃもう駄目」と言われる。

どうやら、朝一番で出る便しかやっていないらしい。たぶんホテルやモーテルなら随時やってくれるだろう、と考えてきた二人にとっては聞きたくはない言葉だった。急いでタクシー会社に電話してみると、タクシーでは洞窟までは行かないと言われる。おい!アンタらは何か、僕の冒険旅行を邪魔するために生きているのかい?!

  それに第一もうこの時間では洞窟へは入れないことを知らされた。どうやら洞窟へ下る道は早くに閉まってしまうらしい。確かにエルパソを今朝出発したので、もう午後3時に近い。これからの移動の時間を考えると、今日中の入園は不可能だと知った。

これはもう明朝の送迎に乗るしかないな、と諦めて今夜は近くのモーテルに泊まることにした。2泊分申し込んだモーテルはバンの予約もしてくれると言ってくれた。1泊1人20ドルくらいで、その割にクイーンサイズベッドが2つもあるし、テレビや電子レンジに小型冷蔵庫まである。ユースホステル・キャンプ場・バス車中泊を組み合わせてきた僕にとっては、冒険旅行中に咲いた一輪の花、といった感じで、まるでパラダイス!でも、モーテルぐらいでこんなに喜んでしまうとは僕も哀しいなぁ。

  腹が減り、フラフラと歩き出す二人。町の中心地方向に歩き、適当に入った小さなメキシコレストランで僕は3度目のタコスに手を出した。ここのチップスはそれ程辛くなくて、美味い辛さを心得ていた。ウェイトレスをしているお姉さんがメキシコ美人だった。情熱的な瞳が物凄くキレイだった。食べ終わって、テーブルに金を置いて出ると、僕が忘れた帽子をわざわざ届けに来てくれたりした。本当にキレイな瞳をしている人で、あ~写真でも撮らせてもらいたかったなーと二人は後悔したのだった。

  その後、銃の専門店があったので入って時間をつぶし、スーパーマーケットでビールを土屋さんに買ってもらった。コロナビールというメキシコのビールが美味い、と土屋さんに勧められる。モーテルに戻り、フロントのおじさんに「バン予約できた?」と聞くと「まだ電話つながらないんだよー」と適当に答えられた。

二人はまだ早い時間からコロナビールを飲み、テレビでボクシングを見ながら騒いでいた。アルコールに弱い僕はけっこう酔っ払ったままでフロントへ行き、バン予約がどうなったかをまた尋ねると、明朝6時40分にここのモーテルに迎えに来てくれて、夕方7時30分頃に公園の駐車場に車が来る、とのいい知らせを受けた。往復の送迎で1人20ドルだと言う。金のことはどうでもいいが、全てが上手くいったことが嬉しくて嬉しくて、部屋へと走りながら自分の行動力に酔いしれてジャンプ!それからも土屋さんと散々に飲んで眠った。さぁ、明日は思う存分に冒険をするぞ!







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