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ビザ申請の必要書類 出生証明・婚姻証明 = 日本では戸籍謄本

投稿日:2010年1月28日 更新日:




南砂町駅を過ぎてすぐに東西線は地上に出て、わたしはいつものように

窓から江東区と江戸川区の間の荒川と、その上を走る首都高を探した。

探すといっても、探すまでもなくそれは目の前にあるのだけど、

東西線と平行してかかる清砂大橋のせいですっかり視野は狭められてしまい、

わたしは毎度この景色を見る度に無神経なその橋の設計を恨んでいる。

地下からようやく地上に出て、葛西臨海公園の観覧車の色を楽しみにしているのに、

端の半分も行かない間に窓は橋の背中で埋まってしまって、また何もない景色だけ。

いつもこんな文句ばっかりなんだけど、今日はわたし、

またひとつ知った新しい知識のことで頭が一杯だった。

ビザの世界って不思議がたくさん。

ほら、出生証明と結婚証明って何のことか分かる?

普通の日本人はそんな名前の役所の書類なんかあったのかって思うでしょ。

わたしもそんなの全然聞いたことなかった。

今日、フランスの就労ビザをやったんだけど、家族ビザの申請書類のリストに

Birth CertificateとMarriage Certificateっていう聞きなれない言葉があった。

直訳すれば出生証明と結婚証明でしょ。

「ケン、これは何のこと?区役所に行けばもらえるの?」

分からないから聞いてみたら、ケンは身体後とこっちに向き直って、

でも偉そうにゆったり足を組み替えて世間話みたいにしゃべり始めた。

「そうだよね~。普通知らないよね~。知ってるわけないな。

いや、知ってたらおかしい!」

それでなんか一人で笑い出した。

「知らないよー。教えてよー。教えてくださいよー」」

わたしも三段式に返してみたらケンはどうやらご機嫌になったみたい。

「じゃぁ、toko。tokoとお父さんと親子関係を証明するものを見せてよ」

そう言われて困った。

いや、本当にお父さんだとは思うけど、なんか書類で、って困るよ。住民票かな?

いや、住所はもう実家からこっちに移してるし、保険証だってわたしの名前だし、

運転免許じゃないし。

「ん~と、パスポートでどう?ファミリネームが同じだからそれで証明できるでしょ」

「弱いなぁ、それ。

万が一、親が離婚して母親に引き取られたら姓は母親の旧姓に変わっちゃうよ。

それに、例えば中国では結婚している夫婦はそれでも別姓のままだし、

ファミリーネームが同じだからって家族とは世界的に認められないなぁ。

なんかないの、他に?」

「えー困るなぁ。そんなワガママ言われても。

なるほどね、考えてみれば日本のIDに家族を証明するものってないね。

運転免許の現住所が同じだったらいい?」

「ダメ。同棲している男女は夫婦かい?」

「あーヤダね、そんなお役所みたいなこと言ってさぁ。

戸籍上っていうぐらいだから、役所で戸籍もらってこればいい?」

「あぁ~いいね~。戸籍にも二つあるから個人の情報のみの戸籍抄本じゃなくて

家族全員の名前が載る戸籍謄本がいいね~」

「戸籍謄本?自分の戸籍なんて見たことないかも」

「パスポートを初めて取るときに見たはずなんだけど、憶えてないよね?」

「全然!すっかり忘れてる」

ケンはヨーロッパ各国のビザ申請書類のコピーをファイリングした

分厚いファイルを持ってきて開いた。

「これが戸籍謄本。どう?出生と結婚の証明になるかい?」

改めてじっくり見ると戸籍謄本の中には両親の名前や出生地の都道府県、

生年月日やいつ結婚したかまで入っていた。

戸籍の筆頭者は一般的にはお父さんだから、奥さんお名前や奥さんの両親の名前、

二人の婚姻日、子供の名前や両親の名前、生年月日、そんな情報が書かれている。

「toko、憶えておいて。日本で家族関係、婚姻関係、

それから自分の出生を証明する書類というのはこの戸籍謄本以外にはないんだよ」

足を組み替えながらケンが言う。

「市役所に言っても他の似たような書類ってないの?」

「ないね。住民票などで父とか夫とか本人との関係が書かれたものはあるけど、

正式なのは戸籍謄本だけだよ。

普通、世界一般的にはMarriage CertificationとBirth Certificationは存在するんだ。

日本のように姓が一致すれば家族という認識は海外では有り得ない。

民族の違い、文化の違いがあるからね。整理できないんだ」

「じゃぁ、これをどこかで翻訳すればいいの?」

「そうだね。自分で翻訳して公証役場に持ち込んで公証して、

それをビザ申請する大使館に持ち込んで認証してもらえば

その翻訳版は正式なMarriage CertificationとBirth Certificationになるね」

「うん、なるほどね。そんなの普通誰も知らないよ。ちゃんと宣伝しておいてよ、ケン」

「普通は使わないって!これこそビザの世界って感じだ。

親と、夫や妻と、子供とIDをつなげるものが戸籍謄本しかなくて、

しかもそれは僕たちはいつも持ってないし、

わざわざ本籍のあるところの役場に行かないと手に入らないんだよ。

そう思うと結構危ういものじゃないかな、日本の家族関係って」

――今日、ケンが教えてくれたのはそういうことだった。

家族関係を証明する書類、か。

就労ビザや留学ビザの申請で扶養家族の帯同ビザがある時はまず必要だとケンは言った。

そうだよね、同姓なんていくらでもいるのだし、パスポートの名前だけじゃおかしいもん。

清砂大橋を過ぎて西葛西駅に着く前、わずかにのぞく葛西臨海公園の大観覧車は

今日もカメレオンみたいに七色をまとっている。

お休みの日、あの観覧車に向かい合って乗る親子がいて、横並びに乗る恋人たちがいる。

人と人との関係、数字や文字にはできない間柄を証明するものがたったひとつ、

いや、たったひとつでもあれば間に合うのかもしれない。

何よ、このビザの世界。他人が他人を判断するってこんな表面のものしかないから、

紙も馬鹿にしたもんじゃない。

戸籍謄本一枚か。

その一枚がビザを許す、数年間共に暮らすためのビザを発行させる。

現実との狭間の広いこと!

やっぱり納得できない役所の世界にわたしは思わず瞬きした。







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