外国籍 アメリカビザ

「日本から見た外国人、アメリカから見れば第三国人だね、この方々の申請ほど緊張するものはないよ」

思えばマックスウェル弁護士は最初からそう言っていた。


「今回問題になったのは日本での滞在期間が3ヶ月と短かかったことだろう。

他は何も問題ないのだから」

海外から日本に企業内転勤してきた、とあるアジア人が

アメリカB2ビザを申請して却下されたケースが発生した。


実の兄がアメリカにH1B Visa Holderとして滞在しているので、

家族そろって遊びに行こうとしたが、ビザ却下されたことでその計画が頓挫した。

「分かっているさ、ケンのことだから書類は完璧だったのだろう?

英文残高証明やインビテーションレターに日程表、

日本の会社からの休暇証明書まで持かせたのかい?」


「もちろんだよ、家族関係を証明する書類もそうだし、

アメリカの兄の給与証明まで持たせた。

当然日本の外国人登録証は全員分あるよ。書類はどう見ても完璧だった」

「同じグループ企業で、アジアのローカル採用の社員が日本に転勤してきたわけだし、

身元ははっきりしている。

その申請者個人だって優秀な人物だったのだろうし、給与も安いわけでもないだろうし」


「そうなんだ、Master Degreeを持っていて、日本人と同じ給料をもらっている社員だよ。

家族だって子供連れで一緒に渡米する予定なんだ。

何もテロの要素はないように見えるけどね」

「じゃぁ、やっぱりその面接で担当官から言われた日本の在住暦が浅いことだけが原因だな。

窓口では1年といわれたのかい?」

 

 

パスポート写真4.jpg

 


「そうだ。アメリカビザを本国で取れないから、わざわざ日本に来て

審査の甘いところでビザを取ろうとしていると、誤解された。

日本との結びつきは確かに薄いが、会社という結びつきがあるんだけどなぁ。。。」

「ケン。そこが判断できないところだな。

昔ね、アメリカに住んでいる日本人の夫と、シンガポール人の妻がビザ延長しようとして、

日本で延長申請することにした。

問題は妻が日本の外国人登録証を持っていないってことだった。

当然だろうね、日本には住んでいないのだから」

「それはいいサンプルだな。申請は通ったのかい?」

「それがな、全く問題なくビザ発行された。Marriage Certificationだけで通ったんだ。

あとは日本の会社からのサポートレターがあったな。

日本に住んでいなくても第三国人がビザを発給された、珍しい例だよ。

まぁ、夫との結びつきがはっきりしていたからだな」


「あぁ。難しいものだな。家族関係という強力な結びつきのない第三国人は、

少なくとも一年は日本に住まないと日本のアメリカ大使館でビザ申請する資格がないかもしれないな」

「半年、という説もある。先進国の国籍なら半年で大丈夫なはずなんだ。

ここら辺は判断できないところだけどね」

「フレディ、参考になる情報をありがとう。また相談に乗ってくれよ」

「Sure!お互い様さ!」

そんなケンとマックウェル弁護士の、いつものやりとり。

 

H1Bビザ 上限数

「ビザの世界は本当にややこしい。

僕らのような実務的な話なんて小さいもので、大局を見れば政治的なもの、

経済的なもの、そういうものが根底に流れている」

ケンとマックスウェル弁護士が話している内容はいつも難しい。

楽しいランチタイムに話すことじゃないのに?とも思うけど

きっと二人にとってはこの上なく楽しい話題なのかな。

他の男の人たちがスポーツの話をするように、

女の人たちが昨夜のテレビの話をするように二人は楽しんでいるのかな。

「ケン、聞いたかい?マイクロソフトのビルゲイツ会長が連邦議会で

発言した内容のひとつにH1B発給数上限を廃止して欲しい、ということがあったようなんだ」

「それは聞いてなかったね!なんか凄く説得力のある話じゃないか」

顔を高揚させてケンが口を開く。

「そうなんだな。

我がアメリカは移民の国だから外国からの優秀な人材を獲得することは

最重要項目のひとつだと思う。

まぁ、これは日本も同じだと思うけどね」

「2006年のH1Bビザ発給は65,000でこれは毎年4月に

スタートした途端にすぐにいっぱいになってしまうね。

アメリカで働き、暮らし、そして税金を払いたいという外国人はいくら優秀であっても、

一年もの時間を待たないといけないんだ」

「あぁ、アメリカの大学で修士号を取った人や、すでにH1Bを持っている人の延長申請は

その枠外というルールはあるにしても、実際その枠は狭すぎると思うよ」

「だろう?それはねぇ、国内失業率のことや国際競争力だとか政治的・経済的、

それに軍事的な大局はあるにしても、やはりひずみが出ていたんだな。

それもビルゲイツ氏のような発言力のある方が言うのだから余程のことなんだよ」


「ビザの世界は知ったつもりだったけど、

我々の知らないところでアメリカビザの問題があったっていうことか」

「そうだよな、安全で優秀な外国人はいくらでも歓迎するべきなんだ。

それを政府が一律のルールで発給上限数を決めてしまうのは

政治的な側面からはよしとしても、経済の停滞を引き起こしかねない。

H1Bを発給されるような人物であれば

何万人アメリカに来ようがアメリカの国益を損ねないんだ」


アメリカ大使館近くの虎ノ門の焼鳥屋さん。

頼んだ焼鳥丼が出てくる間に、そんな濃いことを話して二人は

わたしのことをすっかり忘れてしまっているみたい。

ダメね、二人とも。

実務面から、学者面からばっかりビザを見ているから

彼らにだって気づかないことだってあるでしょ。

ビルゲイツ氏の言葉になんだかショックを受けているみたいだ。

「そうよ!」自分の知らない角度っていくらでもあるものでしょ!」


たまには二人に小言を言おうとわたしが口を挟む。

「そのH1Bビザのこともそう。

例えばね、H1BとかH3とか暗号みたいな言葉ばっかり使って

マニアな世界で遊んでいないでもっとシンプルな言い方、"一時就労ビザ"とか

"追加ビザ申請書"とかもっと普通の名称にしたほうがいいと思うけどね!」

そう言うわたしの横で店の人が

「Cランチお待たせしました!」

と元気よく言うので、つい、わたし

「は〜い、焼鳥丼と鶏ガラスープのセットですね!」

とコード化せずに言い直したらケンとマックスウェル弁護士が

難しそうな顔をして苦笑いを浮かべていた。

アメリカ生まれ 二重国籍

「ある時、とても不思議な事件が持ち上がったんだ」

推理小説の探偵さんみたいな口調でケンは語った。

あれは横浜の港が見える丘の、とある領事館に行った帰り道、バス待ちの時間のこと。

「まだバスが来るまで10分はある。

ここに来たらやっぱり港が見える丘からの景色を見ないとね」

と言ってケンはバス停からバラ園を歩き、港が見えるという公園までわたしを連れ出した。


「えっ、あなたアメリカ人だったんですか?って事件だったんだよ。

僕も驚いたが、相手はもっと驚いていた。

まさか自分がアメリカ人だってこと知らなかったんだから」

「?????」

「普通のL1ブランケットを申請したらね、出生地がアメリカなのは気になっていたんだけど、

もう30歳だったから国籍の選択も済んでいると思ったんだ。

ある日、そのお客さんから電話があってね、お客さんも不思議そうな声で、

今アメリカ大使館から電話があって、あなたはアメリカ国籍を持っているから

ビザは発給できないのでアメリカのパスポートを取ってください、と言われた、

と彼は言ったんだ」


「二重国籍、ってヤツかな。よく知らないけど」

「tokoも知らないだろう?いや、これは誰も知らなかったよ。

二重国籍って大人になったら国籍を選択するものだと思っていた。

実際、日本はそうなんだよ。二十二歳で選択だ。でもね、アメリカは違う。

アメリカは二重国籍を認めているんだ。

そして、日本も大人になっても国籍選択をしなかった者に対して

日本国籍をすぐに剥奪、ということはしていない。

場合によっては日本国籍を失う、とは言っているが強行することは余程ないだろう」


「へぇ〜。そんなことがあるんだ〜。それで?ビザはどうしたの?」

「これが会社ともめたよ。アメリカ国籍を放棄してアメリカビザを取得するか、

もしくはアメリカのパスポートを取得してアメリカ人として赴任するか。

結局はね、アメリカのパスポートを取った」


「それって問題とかゼッタイあるでしょ???」

「そう。つまりはアメリカ人だからね、急にアメリカが徴兵制になったら

アメリカ人として徴兵されるだろうし、

アメリカ市民として裁判の陪審員に招かれるかもしれない

会社の人事が動いたけど、結局は日本国籍の放棄まで強制させることはできなかった」

「なるほどね。本人はさぞびっくりしたでしょうね。

まさか自分がアメリカ人だっただなんて、30歳にしてやっと分かった、ってことでしょ?」

「それもそうなんだけどね、もっとびっくりしたのがそのアメリカ人の奥さんさ。

自分のダンナが本当はアメリカ人だった?!

なんか不謹慎だけど、びっくりを通り越して笑えちゃうかも」


「本当ね!ね、その場合、奥さんのビザはどうなるの?」

「アメリカ人を配偶者に持つ外国人が取る移民ビザだよ!

手続きはややこしいけど、永住権が取れるんだ。これもびっくりしていたよ」

「うわっ。驚いたなんてもんじゃないでしょうね〜。」


そう話している間にわたしの視界に横浜港の景色が飛び込んできた。

ベイブリッジも見えるし、港みらいのほうまでこの丘からは一望できる。

「あれは事件だったね。人生では知らないこと、意外なことが突如降ってくることがある。

運命の悪戯、人生のびっくり箱。

まさかアメリカビザ申請をしていてそんなことに出くわすとは、

誰もが想像できないことだった。面白いよ!」

港風に髪をなびかせて、ケンが無邪気に笑う。

ケンと一緒にそんなビザの世界を冒険するのも、

なかなか楽しいんじゃないかな、とわたしは心から思っていた。

 

アメリカビザ 有効期間

――ねぇ、ケン。アメリカビザの有効期間ってどうして3年なの?

――それはね、人間の生活が3年を周期に変わってゆくからだよ。

仕事の話だと思って真面目に聞いたのに、ケンはそういう答え方でわたしを煙に巻いた。


――ちょっと!そういうことじゃないでしょ?

――いやいや、これは真面目な話。

Lビザが3年間有効なのはそういう意味じゃないかな。

何しろLは海外転勤のビザだからね、生活のタームっていうか、

人の変化の区切りを無視したつまらないビザルールを

アメリカは採用していないってことさ。素晴らしい!


――そんないきなり言われても分からないわよ。

でもEとかFは5年でしょ?Jは1年か2年で許可出ることが多いじゃない。

不思議ね、それぞれ違うなんて。

――あぁ、そうだね、toko。まぁ、不思議なようで不思議ではないんだ、

このアメリカビザの有効期限の話って。Lは企業内転勤で、一時的な海外赴任だよ。

それには仕事以上に生活のリズムというものが意味を持つ。

人は3年単位で変わってゆくから、その区切りのひとつを

アメリカで過ごすというのはとても納得できる話だ。

3年で帰れるならば心も整理しやすい。

 

 

――うん。そう言われれば分かったような気になってきた。じゃ、5年のビザは?

――あれはまたビザの種類が違うよ。

E1/E2はアメリカへお金を投資している人たちのビザじゃないか。

生活の本拠、とまで言わないが資本を投資しているなら3年じゃ短過ぎる。

せめて最低5年、それにEビザは投資が継続されている限り無期限で延長されるからね。

お金を稼ぐのだから5年からが正解さ。

Fの留学ビザだって、大学は4年なんだし、

何かをしっかり身につけようとしたら3年じゃぁちょっと足りない。

ほら、やっぱり5年がぴったりだよ、Fビザも。


――ふぅん。上手く言ったわね。ますますその気になってきたかも。

――だろう?だから研修の意味がある交換留学のJビザの

2年か1年っていう有効期限も、あまり研修が長過ぎてもだらだらしちゃうことを

考えれば妥当だし、B1/B2に見る5年か10年っていう有効期限も、

基本的に人の生活や会社が変わらないっていう世の中の道理を考えれば、

申請者と大使館にとってはお互いに最低限の作業工数で、

かつ、最長の有効期限だと思うよ。良くできている。実に良くできている。


――なんかやけに大使館の肩持つのね!領事さんみたい!

――ははは。ホントだね、tokoの言う通り。我ながらヘンだ。

ビザルールって移民法で決められたものだけどさ、

勝手に解釈したらこんなになっちゃったよ。

アメリカって非合理的の部分が結構ある反面、

こういうところは実に合理的で、結構物分りがいい。凄いって思うよ。

 

――ねぇ、他の国のビザはどうなの?やっぱり同じくらい?

――いやいや、それがまったく違う。

イギリスのエントリークリアランスが5年有効なのは特例だけど、

他の就労ビザは通常1年か2年更新だ。

――なんでそんなに違うの?

じゃぁ、ケンの言う生活周期とビザってホントは全然関係ないんじゃな〜い?


――おいおい、それはないよ。ビザの有効期間と人間の生活って、

互いに切っても切れない関係で、表裏一体のものだと思うよ。

中国のZビザのような1年更新のもののほうが不自然っていうか、

人間の道理を分かってないっていうか、無用な手間を互いに痛み分けしているな。

だってさ、働く環境が1年で変わると思う?

転職じゃないよ、同じ企業に勤めていながら1年で何かが急激に変化するとは思えない。

更新の意味が分からないよ。

 

――ちょっと!わたしにも言わせてよ。

そこはケンみたいにわたしにも偉そうに語れる!

1年とか2年っていう割合短期間しかおりない労働ビザはアジアに多いと思うけど、

あれはあれで更新を受け付ける側の仕事として成り立つから、

雇用供給のためにはいいんじゃないかな?

1年に1回と、3年に1回じゃ、労働局のスタッフも3倍違うってことでしょう?

どう?わたしのこの意見は?


――素晴らしいね。tokoのおっしゃる通りで正解だと思うよ。

就労ビザって一口に言っても、それぞれの国で違う事情がある。

その中で一番合理的な制度を取っているのはアメリカだと思うけど、

他もそれぞれで理由があるんだろうね。

ビザの有効期限の意味の深さっていうのも、

なんていうか不思議っていうか、奥深いものだな。

――本当ね。ほら、わたしたちのこのビジネス上の関係も3年持つとは限らないし。

恋人や夫婦の関係も3年か5年更新だったら面白いのにね!あはははは!


――その考え方って怖いなぁ〜。でも真実かもしれないね。

ビザの有効期限の数字から読み取れることって結構あるみたいだ。

考えれば考えるほど、面白いものだと思うよ。

――ホント。なんかこんな会話をしている間に、ビザの有効期間の数字の裏に隠された、

人間の生活の様を旅しちゃったみたい。結構面白い話だったかも。


――あぁ。決められたはずの移民法も、詩的な解釈をすればこうなる。

こういう考え方も面白いと思うよ。

ほら、なんだか身近に感じてきただろう、アメリカビザの有効期間って。

 

アメリカビザ 飲酒運転

「じゃぁ、具体的にアメリカで飲酒運転をして捕まったことがある人は

アメリカビザ申請上でどういう不利益があるの?」

あれはミヤンマー大使館からの帰り道。

バス通りまで戻る真っ直ぐの道でケンに報告がてら携帯で電話した時に話が脱線した。


「不利益!身から出た錆だけど、いくつかあるよ。

まずはね、ビザウェイバープログラムなんだけど、これは問題なく適用できるんだ。

つまり、飲酒運転だけだったらビザなしでアメリカ入国は可能。

でもね、入国カードI-94Wの裏面のB、“悪いことしたことありますか?”

の質問にはYesをチェックしないといけない」

 

 

 

「そっか!それは痛いね。でもスムーズに入国できるのかしら?」

「言えることは、アメリカだからパスポートネームでそういう履歴が全部チェックできる、ってこと。

入国審査官はすぐにデータを引っ張り出せるはずなんだ。

まぁ、その事件の書類一式を素直に出して状況説明をするんだろうね。

毎回かどうかは審査官次第だと思うけどさ」


「それから、ビザ申請の時は何かあるの?」

「もちろんあるとも!申請書DS156の2枚目、38番の質問項目ね。

“悪いことしたことがありますか?”に、ここもYesと答えないといけない」

「それってイコール、ビザ却下ではないって前に聞いたけど?」

「そうだよ。ちゃんと弁解する余地は残されている。

重度のことでなければきっとビザは発行されるよ。

知っているのにそこにNoと答えてしまったら後が怖いけどね」

そう話していたら、五反田から品川駅に向かう都バスの姿が見えてきて、

わたしは急いで交差点を渡った。

「ありがとうございました、じゃぁこれから帰ります」


そう言って電話を切る。バスに乗って御殿山から品川の景色を眺めていると、

いつも通りの人の数、人の山。

――きっと、そんな損なことがあると先に知っていたら

飲酒運転なんかやらなかったはずなのに。

わたしはそう思う。


知らないこと、こういうことを事前に世間に周知しておいたら、

きっと飲酒運転の最良の防止になるんじゃないかな。

人生を狂わせてしまうたった一度の過ちって本当に怖い。

すれすれのところで生きているような、

薄い人生の分かれ道だな、ってわたしは思った。

 





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