直前割引宿

ラストミニッツの宿予約、直前割引があったり、当日宿泊予約でのお得感があったりして。

いいえ、ラストミニッツというのは、散りゆく桜の意味。

京都の桜名所を訪れる人たち向けに創った宿泊レートに、

ラストミニッツという名前を付けて、私たちの宿は観光客へ販売しているの。


だって、満開の桜ならば何の割引もせずにお部屋を販売しても、

宿泊客のみなさんには満足してもらえると思うけど、それがどうかしら、

4月も中旬すぎ、桜が散り去る寸前とか、少し前になると、桜を期待してきたのに、

もう散り途中にあるのを見て、がっかりされても不憫だから。


桜のラストミニッツ、その時期に宿泊予約してくれる人には、宿泊料金を割引してあげちゃう。

だからどうぞお願いね、京都の桜、特に私が一番だと思っている平野神社の桜を愛してね。

 

 

 

 

この桜ラストミニッツパッケージは、別に宿泊料金の割引だけじゃなくて、

アメニティグッズで差別化しているところにも注目して欲しいな。


シャンプーリンス、ボディーローション、ちょっと原価が高いけど、

しっかりしたブランドのものを提供しているから、女性には必ず喜ばれるはずなの。


直前ならではの美学ってある。

ホテルや旅館の予約が直前だと割引されるって、もうだいぶ世間に周知されているわ。

超一流アスリートがピーク時に引退するのは、最高潮が散りゆく寸前のギリギリを見極めたからね。


散りゆく寸前の花が愛しいっていうのも、見える人には見えるラストミニッツの楽しさ。

葉桜を美しいと思う心境って、すごく大人だと思うの。


ラストミニッツの宿予約をして、散り桜と葉桜を愛でる旅行、

そんなのも、新しい4月中旬のイベントになると思わない?

 



直前割引ホテル

今思うと、直前割引ホテルが日本に定着したのは、東京のホテルラッシュが契機。

 

2008-2010の間に、東京都内には幾つのホテルがNEW OPENしただろう。

しかも4つ星・5つ星のラクジュアリーホテルばかり、

海外の有名ホテルブランドチェーンが一気に東京に進出してきたことは君の記憶にも残っているだろう。


それによって東京のホテル供給は本来の需要よりも多くなった

図らずに起きた、2008年秋からの世界的な経済不況が、

ホテル宿泊客の需要を冷え込ませ、ホテルの供給量過多となる事態を招いた。

 

 

直前割引ホテル2.jpg


さぁ、どうする、OPENしたてのブランドチェーンホテルたち。

彼らの答えは一様に同じで、既存のディスカウントレートを拡大し

新顧客を取り込むことにまっしぐらになった。


その代表的なディスカウントレートが、ホテル直前割引。

早期予約割引制度はあったけど、そんな早くから旅行計画を立てられる人ばかりではなく、

不況下では旅行者の絶対数が冷え込み、代わりに期待できるのは突発の出張者。


急に決まる出張者、旅行者をどう取り込むかが、ホテルの次の狙いとなって、

それには直前割引ホテルという新しいインパクトを出すことで、

宿泊客をより広く囲い込みできると、ホテルは知恵を付けた。


それは知恵っていうか、本当はホテルもそんな割引ばかりをしたくはなかったけど、

背に腹は抱えられない経済状況下で、渋々ではあるものの、

直前割引という新商品を提供することにしたのが本音

 

 

直前割引ホテル1.jpg

 


値下げ競争だと、結局は体力勝負になるから、

ホテル同士も横目で見合っては少しずつ、少しずつ直前割引を解禁していた。

 

「直前割引なら、○○ホテル」っていう明るいイメージは欲しいけど、

利益率の悪い直前割引予約で部屋が埋まるのも困る。

ただ、恐れるあまり直前割引の客が逃げて、空室になってはホテルの存続にも支障が出る。


ホテル側の苦悩を後押ししたのは、顧客からのリクエストだった。

 

「お宅のホテルは直前予約割引ないの?」

「直前予約があるなら泊まりますが」

「直前予約もないホテルは問題外」

 

一部だったそんな声が徐々に高まる中、いよいよホテルも腹を決め、

直前割引予約を前面に押し出すセールスを選択するところが出始めた。


結果として、直前割引ホテルの増加により、東京のホテル需要量は格段に向上し、

ホテルの供給量上限には届かないものの、多くのホテルが潤うことになった

 

それは同時に、宿泊客側も直前割引予約でホテルに泊まることができる

という利益を享受することになったのだから、両者万々歳と呼んでもよいのではないかな。

 



アメリカビザ パスポート更新

「パスポートを更新したのですが、前のパスポートに残っている有効中のアメリカビザは自動的に失効するんですよね?」


そんなこと考えたこともなかった。

 

お客さんからの電話を受けて即答できなかったわたしが頼るのはもちろん、ケンしかいない。


少々お待ちください、と断ってケンに聞いてみると

 

「パスポートを必ず二冊両方もって入国するように言いましょう、

 

パスポートを更新しても古いパスポートに残ったビザは有効期間中は生きています」との返事だった。

 

お客さんに答えた後でケンに改めて聞いてみると、「よくあることだよ」と彼は言った。

 

 

アメリカビザ写真2.jpg

 


「なにしろアメリカビザは有効期限が長い。他の国のように1年や2年じゃない、3年から5年、ものによっては10年だしね。


普通はパスポートが切れればビザは取り直しになるんだよ。

 

でもアメリカは違うな。両方持ってゆけばいい。なんていうか、合理的だよ」

 


「なるほどねぇ〜。それは合理的でいいわ。他の国にはない制度なのね」

 

 

「唯一、オーストラリアのシールビザだけは同じルールだけど、他はみんな取り直しだね。

 

これはなかなかいい制度だと思うよ」

 

 

そう言ってケンは嬉しそうにしていた。


なんだかんだ言っても、ケンはアメリカビザのことが好きというか、嫌いじゃないんだ。わたしはそう感じたよ。

 



ブランケットLビザ

「じゃぁ、ブランケットLを取るのが一番じゃない!」

僕がアメリカビザの種類を説明しているとtokoは「わたし、分かりました!」という表情をしてそう叫んだ。


「そうだよ、ブランケットLが取れるなら一番いい」

 

何か気にしておかないといけないこととかあるの?

 

EやノーマルLと較べて申請が難しいとかあるとか?」

 

面白いと思った。

 

まだアメリカビザを勉強中の彼女がEやLという言葉を操っている。

 

「唯一、ブランケットLは追加で500ドルも収めない、といけないというルールがあることぐらいかな。

 

お金の問題。あとは申請条件さえ満たしていれば何の支障もない」

 

「条件!その条件を教えてください。知っておかなくちゃ」

 

こんな時尋ねてくる彼女の表情はスポンジみたいに吸収しそうというか、

 

すごく知りたいんだな、という顔をする。だから僕もいくらでも教えたくなるのか。

 


「細かくは沢山規定があるけど、重要なのは、そうだな、

 

最近3年の間に最低1年はその日本の会社で働いた実績がないといけない、ということかな」

 

「1年。普通に考えれば大丈夫ね。どういう場合がダメなの?」

 

そうだよ、その言葉の奥まで気にする気持ちが大切だ。

 

彼女はよくそれを分かっている。

 

「例えば、転職してきたばかりでいきなりアメリカの子会社に派遣させようとしてもダメだ」

 

「あ〜なるほど。でも会社がギャランティーするから良さそうなものだけどねー」

 

「いや、問題はLが企業内転勤という性質を持っているってことさ。

 

一時雇用のHとの違いを考えないといけない。

 

Lは同グループ内での転勤という信頼性で成り立っているから、

 

いきなり入ってきた人間をLでアメリカで働かせるわけにはいかない」

 

「なるほど。"合理的なアメリカビザルール"だもんね」


tokoはこの"合理的な"という言葉をすっかり気に入ってしまったようだ。


教えたのは他でもなくこの僕なのだが。

 

 

アメリカビザ写真1.jpg

 


「ケン、他には難しいことはないの?」

 

「あとはね、そのI−797にリストアップされた会社の中での異動が対象であって、

 

グループ会社といってもリスト外の会社はダメってこと。

 

例えばインハウスのウチの会社は親会社とまったく職種が違うから

 

ブランケットLでのグループ会社として認められることはない。

 

僕がアメリカに行こうとしてもLは取れない」

 

「うん、うん。ノーマルLでもブランケットでもダメね」


「ダメだ。あとは、一度Lの上限、L−1Aの7年、L−1Bの5年に達したら


次にLを申請できるのは日本に帰ってきて1年以上しないとダメ、ということ。


これも覚えておこう」


「えぇと、長くアメリカ駐在していた人が日本に帰任して

 

またすぐにアメリカに行こうとするパターンかな。そんなのあるの?」

 

「まずないけどね。そういうルールも全部がアレだよ、ほら、アレ?」

 

そう振るとtokoは楽しそうな笑顔で言う。

 

「合理的なアメリカビザだから、ね?」


こういう教え方なら覚えてくれるのもすぐだろう。


ルールをルールだけじゃなくて理由立てて教えなければ人の頭の深いところにはいってゆかない。


「質問があります、ケン先生」

 

「気持ち悪いな。toko先生、どうしましたか?」

 

我ながら仲良さそうに教えてる、って会社の周りから思われてるんだろうなぁって思った。

 

「ビザ申請前に1ヶ月とか2ヶ月とかアメリカに出張しちゃったらどうなるの?

 

その1年ってこのルールにはどう適用されるんですか?」

 

「おお、さすがは優秀な生徒。いい質問です。でも答えはやっぱり合理的なアメリカビザの中にある」

 

「ダメなの?まさかカウント外とか?」

 

「そう。海外出張の期間は1年の中にカウントされないよ。

 

そんなつまらない抜け道を作るわけないじゃないか、あの移民法が」

 

tokoはわたしが作ったアメリカブランケットLビザのマニュアルをじっくり読み返し始めた。

 

わたしは次の質問がいつ来るのかと内心楽しみにしながら彼女の横顔をちらちらと窺う。


・・・それにしても。

 

tokoの勉強熱心ぶりは嬉しいものだな。

 

いずれ僕のこのマニアックな知識も誰かに引き継がなくてはならない。

 

一生この就労ビザ担当ばかりをするわけにもゆかないだろう。

 

今まで僕が一人で貯めこんできた知識を経験を

 

この勉強態度ができるtokoに伝えられる、というのはとても幸せなことだ。

 

多くを僕は求めない。人だから短所はあるものだ。

 

そんな細かくはこだわらず、ただ、人に聞く姿勢というものがこんなにも大切なんだな、


ということをtokoというまだ若いこの女性の存在で僕は改めて知らされた。

 

アメリカの就労ビザなんてもの、普段の生活にはまったく接点がないもの。


だけどそれにも興味を出して学ぼうとするtokoのひたむきな姿勢に、僕は惜しまず全てを彼女に残そうと思った。


ほら、またtokoがこっちを向いた。わたしまだ納得していません、

 

という意志の強い表情に、知的好奇心が丸出しだ。

 

教えてあげるよ、ほら、僕のすべてを伝えてあげる。

 

「ケン、これはどうなの?どうしてI−129Sって書類は3部作るの?」


「あぁ、それはね・・・」

 





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