ドローンと小早川秀秋〜関ヶ原の戦い

小早川秀秋は、関ヶ原の戦いを松尾山頂から見ている。
「俺は叔父・豊臣秀吉と違って能力を欠いた男だが、ドローンという特技がある。乱世を生き残るぞ、ドローンで」

 

どちらが優勢に戦をしているのか、霧が見分けを妨げていた。
西軍(毛利輝元)は地形を抑えているが、総兵力の半分も戦っていない。
東軍(徳川家康)は実兵力では優勢だが、士気が上がっていない。
関ヶ原の戦いは、一進一退のまま、決め手を欠いていた。

 

 

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小早川秀秋。
秀吉の数少ない親族というだけで、37万石もの大身を天から甘受し、1万5千の軍兵を率いている。
何故だろう、戦場の中心地にではなく、関ヶ原を一望する松尾山頂に陣を構えていた。
西軍は豊臣家のために戦っており、小早川家の本家にあたる毛利家当主・毛利輝元は西軍総大将。
豊臣・毛利どちらの親族である小早川秀秋は、西軍の主戦力であるはずだ。
で、あるはずだ。
はずだった。

 

小早川秀秋は様子見を決め込み、松尾山から兵を出していない。
関ヶ原の戦いに勝つのは徳川家康と直感し、家康に内通していた。
いや、正確には両天秤をかけていた。
表の顔は西軍に、裏の顔は東軍に。
どちらでもいい、勝って天下人になる方につく。
それが小早川秀秋の生きる道。

 

「ドローンを飛ばしても、これだけ霧が濃いと下の様子が映像に映らない」
リモート・コントローラーを握る小早川秀秋の手は、焦りで汗ばんでいた。
「関ヶ原で最も視界が開けている松尾山頂を確保したのに、霧とは不運」
無理にテイクオフしたところで、1,200万画素・1/2.3CMOSセンサーのカメラをもっても霧しか映らない。


「ドローンで勝つ方をギリギリまで見極め、俺の加勢で勝利を決定的にする。それが俺の価値を最大限に売りつける術」
総大将に任じられた慶長の役で成果を出せず、秀吉から大幅減封をされた経験のある小早川秀秋は、武将としての自分の無能さを受け入れていた。
「1万5千の兵。無能な俺だろうが、この物理的な兵数は誰も無視できるものか」
19歳だからといって甘く見るな。14−15で元服・初陣する者が多い当時、19歳は今の20台後半に相当する。慶長の役という濃い戦歴だってある。
「ドローンを飛ばして、リアルタイムの戦況で俺は判断する」


臆病による両天秤、天から授かった大軍。

愛機はDJI社のマビックエア(Mavic Air)。
金にモノを言わせて、アマゾンで買ったドローンだ。
昨日、松尾山に着陣した直後に、テスト飛行をしてどこでテイクオフ・ランディングをさせればいいか、どの方向に飛ばせばいいかは事前チェックしてある。
ドローン離発着用のランディングパットを広げ、キャリブレーションを済ませ、インテリジェント・フライトバッテリーの予備を持ち、マビックエアを飛ばす準備はとうに出来ていた。

 

 

関ヶ原の戦いドローン2.jpg

 


10時、霧の間から青い空が見えるようになってきた。
小早川秀秋は素早くドローンをテイクオフさせる。
1.2mの高さまで自動離陸させると、時間との勝負だからスポーツモードにして上昇・飛行スピードを一気に稼ぐ。
24mmの広角レンズは、下向きにすると戦場の広くを映し出す。
陽が出れば、霧散が始まる。
関ヶ原の上空を一往復し、各隊の戦っている様子をドローンで探るぞ。


まっすぐ笹尾山へ、ちょうど戦場の真上を通る。
どんな伝令や物見よりも速く、正確なのがドローン。

「霧は消え始めたばかり。ドローンにも何も映らないか」
そう呟く小早川秀秋。
霧に紛れて軍兵や陣形が見えるものの、部分部分しか分からない。
「合戦の本番はこれから。戦況はまだ見極められず」

 

石田三成の本陣がある笹尾山までは、直線距離にして3km。
マビックエアの性能では2kmも飛ぶと伝送距離に限界が来て、映像がモニターに入ってこなくなった。
「まずいな。だが、リターントゥーホーム機能が自動で発動されて、ドローンが帰還し始めたぞ」
映像が入る距離にまでドローンが戻ってくると、モニターの地図と方向を見て小早川秀秋はマニュアルのスポーツモードで松尾山頂へ帰還させる。
5分も経たず、ドローンは手元に戻ってきた。

気が焦っているのか、小早川秀秋はランディングパットも使わず、ハンドキャッチで数秒さえも節約した。
バッテリー残量はまだ半分はあるが、用心でバッテリー交換をする。
次のフライトが、情報収集の決定打になると分かっているからだ。

まだ早い、もう少し待たなくては。


家老の稲葉正成がやってきては、家康への裏切り表明の決断を迫るが、小早川秀秋が頷くことはない。
まだだ、今ではない。
ドローンが俺を判断させてくれる。

11時、視界はすっかり開けた。
大軍が動いていること、両軍が拮抗していることは、地の利を得た松尾山頂からは目視でも分かった。
ただ、もう一歩踏み込まないと見えないものがある。
それはドローンなんだ、ドローンにしか得られない情報がある。

 

「ここが切所だ。俺の唯一の武器はドローン。頼んだぞ、マビックエア!」
再び笹尾山までスポーツモードで飛ばすと、カメラは数秒毎に豊富な情報量を視覚へ提供する。

松尾山麓で、大谷吉継と藤堂高虎が戦っているが一進一退。
宇喜多秀家は兵数が多く、福島正則・井伊直政を圧している。
小西行長は田中吉政・筒井定次と互角。
島津義弘は動いていない。
有利な地形を抑え、土塁や柵を事前に備えていた効果だろう、全体的には数が少なく見えても西軍のほうが有利。


マビックエアの3軸ジンバルは優れていて、スポーツモードの高速飛行でもカメラが途切れたり揺れたりすることはない。
目視では互角にしか見えなかったが、ドローンで近付いてみると実情は違う。

レンズの角度を前向きにして、西軍の中心人物・石田三成を窺えば、ここに黒田長政・細川忠興・加藤嘉明ら東軍の敵兵が集中しているものの、石田三成が押し返している様子。
さすが、無双の島左近・蒲生郷舎を侍大将に迎えているだけのことはある。
コントローラーの左レバーを動かし、マビックエアのカメラの角度を変える。
徳川家康のいる桃配山を見ると動きはない。
遠く南宮山にも動きはない、毛利家の兵を率いてきた毛利秀元は戦わないのか?

 

 

関ヶ原の戦いドローン1.jpg

 

 

数分間の濃い情報。
判断力の強さ弱さではなく、ドローンの動画を見れば誰にでも分かること。
ドローンを帰還させながら、小早川秀秋は考えていた。

西軍は総兵力の半分も戦っていない。
戦っていない大半は、総大将の毛利家と俺。
毛利家はそもそも戦う気がないという噂だったが、どうやら本当のようだ。


総兵力が半減した西軍を実質率いているのが石田三成。

東軍は士気が上がっておらず、苦戦中だ。
徳川譜代の将や兵が少なく、豊臣政権から徳川派に付いたばかりの将が多いから当然だ。
時間が経てばどうなる?
このまま西軍が押し切るかもしれないが、野戦では兵数が上回る方が勝つのが常道。
勝敗が決まってから味方しても遅いのだ、家康に恩が売りつけられない。
西軍のふりをしていても、俺の今からの合戦参加が西軍勝利の決定打にはならない。
俺が突撃したら毛利家が動くかもしれず、そうなれば功は毛利家へ転がり込む。


つまり、俺を一番高く買ってもらうことは、今、西軍を裏切って東軍につくこと。

小早川秀秋はそう判断した。


生来の愚将ではない。
秀吉に嫌われたら最後、豊臣秀次のように死に追いやられる、という恐怖心からいつしか能力を萎縮させる癖がついた不遇の男。
だが、この時は違う。
幼少の頃、その賢さを秀吉の妻・ねねに認められて養子にもらい受けられた身。
本来は非凡なものを持っている小早川秀秋。
今だけは才能を開花させよ、ドローンで。

石田三成の陣から狼煙があがった。
あれは毛利家と俺に対して、今こそ攻撃をせよという合図だったな。
俺は動く気がない。
合図が上がるということは、西軍にとって俺が今こそ欲されているということ。
わずかだろうが、石田三成が勝機か敗機を感じたということ。
俺が西軍に加勢すれば、流れは一気に西軍に傾く。
俺が東軍に加勢すれば、流れは一気に東軍に傾く。

 

この2−3時間は小早川秀秋は天下人だった。
ドローンは、関ヶ原の戦いの帰結を、小早川秀秋の動きに引き寄せた。
改めて松尾山頂から関ヶ原を見渡して、心の中で呟いた小早川秀秋。
「今この瞬間だけは俺が天下人だ、叔父に追いついた、一瞬だけでも!」

そう考えている間、藤堂高虎の上空にホバリングしていたドローンを見つけて、徳川の鉄砲隊が発砲した。
正体不明の音を立てる飛行物体に苛立ちを感じたのだろう。
それはまるで松尾山の俺へ向けて鉄砲を放ったような角度になったが、その距離から鉄砲を向けても松尾山頂に届くはずがない。

 

小早川家の家老たちは狼狽えていた。
徳川の鉄砲隊から松尾山に向けて威嚇の鉄砲が放たれたようだ。
家康は怒っている。
三成だって怒っている。
危険だ、どちらに着くか結論を出せねば。
賢い判断ができる将ではないことは重々承知の上。
ドローンとかいう、あの空飛ぶ玩具?を見て、小早川秀秋は命を出そうとしている。
それもまた愚かな判断の上塗りではないか。

 

結果、小早川秀秋のこの後の行動が、東軍勝利の直接誘因となる。
西軍の東翼である大谷吉継を破ると、宇喜多秀家・小西行長へ真横からの攻撃となり、西軍はもろくも崩れ去っていった。
小早川秀秋は当初西軍にいたこと・伏見城を攻めたこと・そもそも豊臣一族であることの処罰を免れ、55万石の備前・播磨へ加増移封される厚遇を家康から受けている。
能無しのはずなのに、あのドローンという不思議な物体が小早川秀秋を救った?

 

遂に小早川秀秋は命を下した。
「行け、我らは東軍に付いて、西軍を蹴散らすぞ!」
手に持っていたのはドローン。
あれを握ることで、小早川秀秋は自信を確信に変えた。

 

小早川秀秋がドローンを使っていたと考えると、彼の行動が理解できてくる。
関ヶ原の戦いの勝敗は、ドローンが左右したという空想。

 

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