ブランケットLビザ

「じゃぁ、ブランケットLを取るのが一番じゃない!」

僕がアメリカビザの種類を説明しているとtokoは「わたし、分かりました!」という表情をしてそう叫んだ。


「そうだよ、ブランケットLが取れるなら一番いい」

 

何か気にしておかないといけないこととかあるの?

 

EやノーマルLと較べて申請が難しいとかあるとか?」

 

面白いと思った。

 

まだアメリカビザを勉強中の彼女がEやLという言葉を操っている。

 

「唯一、ブランケットLは追加で500ドルも収めない、といけないというルールがあることぐらいかな。

 

お金の問題。あとは申請条件さえ満たしていれば何の支障もない」

 

「条件!その条件を教えてください。知っておかなくちゃ」

 

こんな時尋ねてくる彼女の表情はスポンジみたいに吸収しそうというか、

 

すごく知りたいんだな、という顔をする。だから僕もいくらでも教えたくなるのか。

 


「細かくは沢山規定があるけど、重要なのは、そうだな、

 

最近3年の間に最低1年はその日本の会社で働いた実績がないといけない、ということかな」

 

「1年。普通に考えれば大丈夫ね。どういう場合がダメなの?」

 

そうだよ、その言葉の奥まで気にする気持ちが大切だ。

 

彼女はよくそれを分かっている。

 

「例えば、転職してきたばかりでいきなりアメリカの子会社に派遣させようとしてもダメだ」

 

「あ〜なるほど。でも会社がギャランティーするから良さそうなものだけどねー」

 

「いや、問題はLが企業内転勤という性質を持っているってことさ。

 

一時雇用のHとの違いを考えないといけない。

 

Lは同グループ内での転勤という信頼性で成り立っているから、

 

いきなり入ってきた人間をLでアメリカで働かせるわけにはいかない」

 

「なるほど。"合理的なアメリカビザルール"だもんね」


tokoはこの"合理的な"という言葉をすっかり気に入ってしまったようだ。


教えたのは他でもなくこの僕なのだが。

 

 

アメリカビザ写真1.jpg

 


「ケン、他には難しいことはないの?」

 

「あとはね、そのI−797にリストアップされた会社の中での異動が対象であって、

 

グループ会社といってもリスト外の会社はダメってこと。

 

例えばインハウスのウチの会社は親会社とまったく職種が違うから

 

ブランケットLでのグループ会社として認められることはない。

 

僕がアメリカに行こうとしてもLは取れない」

 

「うん、うん。ノーマルLでもブランケットでもダメね」


「ダメだ。あとは、一度Lの上限、L−1Aの7年、L−1Bの5年に達したら


次にLを申請できるのは日本に帰ってきて1年以上しないとダメ、ということ。


これも覚えておこう」


「えぇと、長くアメリカ駐在していた人が日本に帰任して

 

またすぐにアメリカに行こうとするパターンかな。そんなのあるの?」

 

「まずないけどね。そういうルールも全部がアレだよ、ほら、アレ?」

 

そう振るとtokoは楽しそうな笑顔で言う。

 

「合理的なアメリカビザだから、ね?」


こういう教え方なら覚えてくれるのもすぐだろう。


ルールをルールだけじゃなくて理由立てて教えなければ人の頭の深いところにはいってゆかない。


「質問があります、ケン先生」

 

「気持ち悪いな。toko先生、どうしましたか?」

 

我ながら仲良さそうに教えてる、って会社の周りから思われてるんだろうなぁって思った。

 

「ビザ申請前に1ヶ月とか2ヶ月とかアメリカに出張しちゃったらどうなるの?

 

その1年ってこのルールにはどう適用されるんですか?」

 

「おお、さすがは優秀な生徒。いい質問です。でも答えはやっぱり合理的なアメリカビザの中にある」

 

「ダメなの?まさかカウント外とか?」

 

「そう。海外出張の期間は1年の中にカウントされないよ。

 

そんなつまらない抜け道を作るわけないじゃないか、あの移民法が」

 

tokoはわたしが作ったアメリカブランケットLビザのマニュアルをじっくり読み返し始めた。

 

わたしは次の質問がいつ来るのかと内心楽しみにしながら彼女の横顔をちらちらと窺う。


・・・それにしても。

 

tokoの勉強熱心ぶりは嬉しいものだな。

 

いずれ僕のこのマニアックな知識も誰かに引き継がなくてはならない。

 

一生この就労ビザ担当ばかりをするわけにもゆかないだろう。

 

今まで僕が一人で貯めこんできた知識を経験を

 

この勉強態度ができるtokoに伝えられる、というのはとても幸せなことだ。

 

多くを僕は求めない。人だから短所はあるものだ。

 

そんな細かくはこだわらず、ただ、人に聞く姿勢というものがこんなにも大切なんだな、


ということをtokoというまだ若いこの女性の存在で僕は改めて知らされた。

 

アメリカの就労ビザなんてもの、普段の生活にはまったく接点がないもの。


だけどそれにも興味を出して学ぼうとするtokoのひたむきな姿勢に、僕は惜しまず全てを彼女に残そうと思った。


ほら、またtokoがこっちを向いた。わたしまだ納得していません、

 

という意志の強い表情に、知的好奇心が丸出しだ。

 

教えてあげるよ、ほら、僕のすべてを伝えてあげる。

 

「ケン、これはどうなの?どうしてI−129Sって書類は3部作るの?」


「あぁ、それはね・・・」

 

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