タモリ 弔辞

「私もあなたの数多くの作品の一つです」

 

昭和を代表するギャグ漫画家・赤塚不二夫の葬式でタモリはそう弔辞を結んだ。


タモリもまた、現代を代表するコメディアンのひとりじゃないか。

 

そんな人が何故、自分を誰かの作品のひとつに例えたのか。

 

聞いてみればそこには知らない物語があって、現代版今昔物語に書き加えたくなってきた。


赤塚不二夫とタモリには親交があって、タモリのコメディアンとしての才能を最初に認めたのも、

 

タモリが世に出るきっかけを作ったのも赤塚不二夫だという。

 

肉親以上だという二人の付き合いはタモリの弔辞の全文を読めば分かるからここには書かないよ。


赤塚不二夫の人生はギャグに溢れていた。

 

タモリの芸もまた、ギャグに溢れている。


弔辞にあるね、今もこの座のちょっと上であぐらをかいた赤塚不二夫が

 

「オマエも笑いのプロなら、葬式でギャグのひとつでもやってみろ!」

 

とばかりニヤニヤとタモリを眺めている気がする、と。


詩的に解釈してみよう、それはタモリのフリだよ。

 

ギャグの師匠に向かって仕掛けた、タモリ最高のギャグ。

 

赤塚不二夫の死という悲しみを、笑いに転化しようとした、タモリ一流のはなむけ。


ニュースにも取り上げられたし、ネット上の掲示板でもだいぶ書かれた。

 

弔辞を読み上げたタモリが手にしていた便箋は、白紙だった。


時々手元のその白紙に目を落し、あたかもそこに書かれたかのような文章を淡々と読み上げたタモリ。

 

あまりに自然な動作だったので最初は気が付かなかったが、確かにあれは白紙だった。

 

視線を紙にやるくせに、言葉は暗記したもの、それをタモリは途中で詰まることもなく、見事にやり遂げてみせた。


――やったね、タモリ!――すごいよ、タモさん!


葬式という場の空気を壊すことなく、

 

赤塚不二夫とタモリをつないだギャグというキーワードを外すこともなく、

 

タモリはその場で最高のギャグを見せてくれた。


白紙が噂になった後、真相を聞かれたタモリはとぼけて答えている。

 

前日の夜にさぁ、酒飲んじゃったから弔辞を書くのが面倒で白紙になっちゃった、って。


そうだよね、ギャグの続きは茶化しだよね、真相を言ったら面白くないもん。

 

そんな訳がないじゃないか。

 

大恩人の弔辞を読む場だよ、タモリは最高のギャグを用意していた。

 

それはさらっと流すようにしなくちゃ面白くないもの。

 

だからタモリ最高のギャグはそうして一見地味にその瞬間には笑いを呼ぶこともなく終わった。


葬式の後、心の内でタモリは密かに爆笑しただろうな!

 

うまくギャグでしめることができたな、って。

 

あの世で赤塚不二夫は大爆笑しただろうな!

 

さすがは俺の一番弟子、見事にギャグで俺の葬式をしめてくれたな、って。

 

高らかに笑い合う二人のギャグ王の姿がイメージできて僕までつられて笑ってしまうよ!


赤塚不二夫のように、死んだときに自分が本当に誰かに必要とされていたのだ、

 

と分かるような人生を過ごせたらいいな。

 

タモリのように、人生の約束をちゃんと最後までやり遂げる人でありたいな。


「私もあなたの数多くの作品の一つです」

 

数十年分の想いが凝縮された、タモリの名言だね。

 

白紙の弔辞。

 

赤塚不二夫をあの世へ笑顔で送る、タモリ最高のギャグ。

 



コメント
コメントする


© 2006 - Ken Box